見出し画像

経済学とファイナンス(大村・浅子・池尾・須田):新古典派成長(ソロー=スワン)モデル

大村らの「経済学とファイナンス」(第2版)を読んでいます。証券アナリストの基本テキストでしたが、読んでいた人はほとんどいないのではないでしょうか。読み物としての面白さは中谷の「入門マクロ経済学」の方が断然上ですが、数式である程度ちゃんとした説明が記述してあり、中級レベルのマクロ経済学の参考書としては意外に良書かもしれません。

とは言っても、読んでいてそれほど面白い本でもないですし(Amazonで1円...)、証券アナリストの基本テキストではなくなっているようで再版はされないでしょうね。

こちらも読んでいて気になったところを備忘録的に記録してこうと思います。今回は新古典派の経済成長(ソロー=スワン)モデルです。短期では資本ストックを一定と仮定しますが、経済成長モデルでは資本ストックの成長を考慮します。

生産量$${Y}$$は、資本ストック$${K}$$と労働投入量$${N}$$に依存し、規模に関して収穫一定(一次同次)とします。すなわち、$${ \lambda Y = F ( \lambda K, \lambda N)}$$より、

$${Y=F(K, N)=F(K/N, 1)N=f(k)N}$$

ただし、$${k=K/N}$$で資本労働比率。

投資$${I}$$と資本ストックの間には次の関係が成り立つと考えます。

$${ \Delta K = I}$$

投資した分が資本ストックの増分として蓄積されるということですね。また貯蓄$${S}$$は貯蓄率$${s}$$として、

$${S=sY}$$

労働投入量$${N}$$は一定の成長率$${n}$$で成長するとします。すなわち

$${\Delta N/N=n}$$

財市場が均衡し、投資と貯蓄(海外、政府部門は捨象)が等しいとすると、

$${I=\Delta K = S = sY = sf(k)N}$$

よって、

$${\Delta K/N=sf(k)}$$

一方、簡単な計算をすると次が分かるとありましたが、経済学的な数学のテクニックに不慣れな私には若干不親切に感じました。

$${ \Delta k = \Delta (K/N) = (N \Delta K - K \Delta N)/N^2 = \Delta K/N - ( \Delta N/N)(K/N) = sf(k)-nk }$$

特に、
$${ \Delta (K/N) = (N\Delta K - K \Delta N)/N^2 }$$

の部分が若干、便宜的な演算になっていて分かりにくいですね。おそらく次のようなことだと思います。

形から合成関数(商)の微分かなという感じはしますね。$${K}$$、$${N}$$は時間経過とともに変化するので、時間$${t}$$の関数、$${K(t)}$$、$${N(t)}$$という風に考えることができます。$${k}$$も同じく、時間$${t}$$の関数になるので

$${k(t) = K(t) / N(t)}$$

ここで$${k(t)}$$を$${t}$$で微分すると、

$${d k(t)/dt = \frac{d K (t)/dt \times N(t) - K(k) \times dN(t)/dt }{N(t)^2}}$$

両変に$${dt}$$をかけてはらいます。

$${d k(t) = \frac{d K (t) \times N(t) - K(k) \times dN(t) }{N(t)^2}}$$

$${d}$$を$${\Delta}$$に書き換えて$${t}$$を略すと、

$${\Delta k = \frac{\Delta K  \times N - K \times \Delta N }{N^2} }$$

となり、求めたい式が導出できました。$${\Delta (K/N)}$$という演算は上のようなことを言っているのだと思います。

このような式変形を使った説明が筋が良いかというと、微妙なところかもしれません。次のような求め方もあるようです。

$${k=K/N}$$を成長率で表すと、$${\Delta k / k = \Delta K / K - \Delta N / N}$$。これは近似的な対数変化率を考えると自明で、ファイナンス界隈ではよく出てくるような気がします。すなわち、

$${z(t)=x(t)y(t)}$$について、対数変化率をとると、

$${ \log \frac{z(t+1)}{z(t)}= \log \frac{x(t+1)y(t+1)}{x(t)y(t)} = \log \frac{x(t+1)}{x(t)} + \log \frac{y(t+1)}{y(t)}}$$

$${\Delta x/x = \frac{x(t+1)- x(t)}{x(t)}\approx \log \frac{x(t+1)}{x(t)} }$$

なので

$${\Delta z/z = \Delta (xy) / xy= \Delta x/x + \Delta y/y}$$

商の場合は、$${z(t)=x(t)y(t)^{-1} }$$を考えればよいだけなので、

$${\Delta z/z = \Delta (xy^{-1}) / xy^{-1}= \Delta x/x -  \Delta y/y}$$

となるだけですね。積の変化率は足し算、商の変化率は引き算と覚えておけば楽そうですね。

$${\Delta k / k = \Delta K / K - \Delta N / N}$$

で、$${\Delta K = sf(k)N}$$でしたから、

$${ \Delta k / k = sf(k)N / K - \Delta N / N = sf(k)/k - n }$$

$${ \Delta k  = sf(k) - nk }$$

これをソロー方程式と呼ぶそうです。こちらの導出の方が筋が良い気がしますね。新古典派成長モデルでは$${k}$$にプライス・メカニズムが働いて弾力的に変化する($${sf(k) > nk }$$、$${sf(k) < nk }$$いずれの場合も$${k}$$が増加/減少する)ことで、$${ sf(k) = nk }$$、すなわち$${\Delta k = 0}$$で、$${k=k^{*}}$$と定数になります(これを定常状態というそうです)。

労働力は$${n}$$で成長しているので、$${k=K/N}$$より資本ストックも$${n}$$で成長します。生産関数は一時同次、すなわち、

$${ \lambda Y = F ( \lambda K, \lambda N)}$$

で、いま$${K}$$と$${N}$$は$${n}$$で成長するので、

$${ (1+n) Y = F ( (1+n) K, (1+n)N)}$$

で実質GDPも$${n}$$で成長することが分かります。全ての変数が$${n}$$で成長する状態を均斉的成長と言うそうです。

最後の一人当たりGDP成長率を見てみます。一人当たりGDPは、

$${y=Y/N}$$

と定義できるので、その成長率は

$${ \Delta y /y =\Delta Y/Y - \Delta N/N}$$

となり、GDP成長率から労働投入量成長率を引いたものになります。均斉的成長ではGDPも労働投入量も$${n}$$で成長するので$${y}$$、つまり一人当たりGDP成長率は成長しないことになります。

このようなモデルはあまり現実にフィットしているとは考えにくく、また技術進歩を考慮しても、外生的にしか技術進歩を扱えない(回帰分析の残差項という意味だと思います)ことから、内政的経済成長論というものが考案されているそうです。

技術進歩はコブ=ダグラス型生産関数のようなものを一般には考えるので、これは次回解説したいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?