見出し画像

[1]ブリヂストン防振ゴム事業売却を考える(その1) ~オープン・ソースから考える中国のサイレント・インベージョン

ニュースの概要

今から1年近く前の2021年12月10日に、防振ゴム事業を中華人民共和国の安徽中鼎控股(集団)股份有限公司(AZ社)に売却するというニュースが有りました。

日経の記事
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC108DA0Q1A211C2000000/

ブリヂストンの正式発表はこちら
https://www.bridgestone.co.jp/corporate/news/pdf/2021121002.pdf

このニュースを聞いたときに戦慄しました。何故戦慄したのかをこれから説明していきます。少々マニアックになりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。

ブリヂストン

ブリヂストンという会社について

恐らく誰もが聞いたことがある会社だとは思います。タイヤやゴルフ用品などでブリヂストンの製品やCMを目にしたことがあると思います。
創業者の石橋さんの名前を英語にするとストーン・ブリッヂ(昔の表現なのでブリッジでは有りません)。それを逆さにしたのが社名です。鳥井さんを逆さにしたサントリーと似てますね。
創業者の孫の一人が、鳩山由紀夫元総理大臣(当時は民主党)です。ルーピー(loopy)という不名誉なあだ名や媚中・媚韓で有名な人物です。お小遣いを毎月1000万円貰っていたという報道が有ったのを覚えて方も多いのでは無いでしょうか。その資金はブリヂストン株から来るもので、民主党を設立する際は手持ちの株を売って資金調達をしたと言われています。
このブリヂストンは、国内のゴム産業としては老舗で学会誌には古くから幾つもの基礎的研究を行った論文が掲載されているほどノウハウを持った会社です。勿論、基礎的な研究だけに留まりません。

防振ゴム事業について

防振とは、振動を抑えたり伝えにくくすることを指します。防振ゴム事業はタイヤ事業とは別になっており、自動車のサスペンション廻りに使われるゴム部品やエンジン・トランスミッションと自動車のフレームを繋ぐマウントと呼ばれる部品、建物の免振用のゴム部品などを扱っています。
売却後の防振ゴム事業は、株式会社プロスパイラという名称になっています。

売却先の中国企業

安徽中鼎控股(集団)股份有限公司[Anhui Zhongding Holding (Group) Co., Ltd.]の傘下の安徽中鼎密封件股份有限公司[Anhui Zhongding Sealing Parts Co., Ltd.]が保有することになります。
この会社について、国内のサイトでは自動車向けという記事が多いのですが、英語名で調べると軍事分野も事業に含まれていることが分かります。

https://www.marklines.com/ja/top500/anhui-zhongding-sealing-parts
から沿革情報を抜粋

安徽中鼎密封件股份有限公司の沿革

前身として安徽省寧国密封廠であることから、国策企業であることが窺えます。また、短期間で次々とドイツやフランスなどの企業を買収しています。

買収目的を考える

ブリヂストンの防振ゴム事業を買収する前に自動車としてのゴム部品はタイヤ以外の殆どをカバーしているほど複数のゴムメーカーを買収しています。ということは、ブリヂストンならではの技術獲得が目的ということになります。

ブリヂストン防振ゴム事業の特殊技術

システム設計とゴム配合技術

防振したい対象に対して、3つの設計レイヤーが必要になってきます。
①システム設計
振動の発生源と防振ゴムの含んだシステムでどのように振動を抑制するかを設計するための技術になります。
②製品設計
システム設計で部品ごとに設定した仕様を具体的な製品形状まで落とし込んでいく技術になります。
③ゴム配合設計
様々な製品に仕様するゴムの配合を設計する技術になります。

システム設計は、ブリヂストンの様なゴム部品メーカーに依頼する依頼元(例えば自動車メーカー)で予め検討するものなのですが、ブリヂストンの場合は必要な情報があればシステム設計が可能な技術レベルを持っています。ゴム部品メーカーの中でもシステム設計ができないメーカーも存在します。ブリヂストンはゴム部品メーカーの中でシステム設計はトップレベルに位置します。更に、先に述べたようにゴムの基礎技術の積み上げから、ゴム配合の技術についてもトップレベルにあります。

アクティブマウント技術

マウントの中にデバイスを入れることで、逆位相の成分で打ち消すという技術です。ヘッドフォンやイヤフォンのノイズキャンセリング、ノイズリダクション技術と同様な技術だと考えると分かりやすいと思います。音も振動の一つなので、逆の波を発生されれば打ち消せる訳です。
アクティブマウントの場合は電気で動くデバイスを用いて逆方向の振動を発生させています。(下図における電磁アクチュエータ)

アクティブマウント
引用:日産 http://history.nissan.co.jp/ELEMENTS/MECHANISM/nr0105_mount.html

日産や本田の車などで採用されたことのある技術です。

インホイールモーター技術

電気自動車のモーターの配置方法の一つでインホイールモーター(In-wheel motor)があります。大まかに言うとタイヤ(ディスクホイール)の内部にモーターを配置するタイプになります。従来のエンジン位置にモーターを置かないことにより、駆動力を伝えるシャフト(ドライブシャフトやプロペラシャフト)が不要になり、タイヤの切れ角を増やしたり、各輪の回転数を個別に制御することが可能になります。欠点としては乗り心地が悪くなったりするのですが、ブリヂストンはこの欠点に対して制御での対策技術研究にも参加していました。

インホイールモーター
引用:日経XTECH https://xtech.nikkei.com/dm/article/WORD/20060418/116209/

また、インホイールモーターでワイヤレス充電に関する研究も行っています。


インホイールモーターのワイヤレス充電
引用:ブリヂストン https://www.bridgestone.co.jp/corporate/news/2019101002.html

この様に、ブリヂストンの防振ゴム事業部はインホイールモーターに関する技術を幾つも持っています。

(続く)オープン・ソースから考える中国のサイレント・インベージョン ~ブリヂストン防振ゴム事業売却を考える(その2)|髙山彦行|note

活動を応援して頂ける方はサポートをご検討いただけますと幸いです。