【創作】病床と熱帯魚
男は病床に伏していた。立ち上がる気力すら無く、時には喀血し、枕元を血に染めたが、それを清めてくれる者は誰も存在しない。男には親兄弟も居なければ、友も居ない。多くの人々が男の普段の振る舞いに眉を顰め、苦言を呈して呆れては、男の元から去って行った。
男は孤独である。彼に残されて居るものは、読まれる事も無く、机の上に高々と積み重ねられた文庫本と、その前に置かれている淡水の入った瓶の中を泳ぐ、長い尾鰭をひらひらと動かす弱ったベタのみであった。
「お前も弱っちまったな。俺も弱っちまっ