暇和梨(ひまわり)。

貧乏人の下っぱ職人。「浅く広く」がモットーというか、結果的にそうなってしまうというか……

暇和梨(ひまわり)。

貧乏人の下っぱ職人。「浅く広く」がモットーというか、結果的にそうなってしまうというか……。そんな感じの人間です。

最近の記事

🌻ショート(前編) 珈琲とゴミ屋敷 

 ネオンが眩しい繁華街の横にある、昭和の匂いが漂う商店街。その一角にある「田米珈琲」という珈琲店を、私は毎日その前を通るたびに、古臭いな……と思いながら見ていた。  味があると言えば聞こえはいいが……店からは年季が入ってるが故の、こびりついて離れない「薄暗さ」が見え隠れする。  常連客以外の出入りが少ないがゆえの「停滞した淀み」。掃除しても掃除しても取り切れない建物の劣化。  それが私には、いいものには感じられなかった。  ……こんな店に私が通うようになるなんて、思ってもみ

    • 🌻ショート(後編)初恋少年と幽霊JKと後悔

       包丁を持った女が、男をメッタ刺しにしている。  男にはもう、命が無いように見えた。 「男なんて……男なんてぇ!」  泣きながら包丁を振り回す女が、ぎょろりと目を動かしてこちらを見た。  その貌には、人として当然持つ何かが決定的に欠けていて…………初めて見る表情だが、正気を失っていることは陽子にもすぐ分かった。 「アハハ……口封じ、しなきゃ」  監視カメラを背に、そんなことを言いながら立ち上がり、女が走り出した。 「陽子、逃げろっ!」  必死な声で陽子をかばうように前に出た健

      • 🌻ショート(中編) 初恋少年と幽霊JKと後悔

         亡霊の陽子は、自分がいつからこの図書館にいるのか、何一つ覚えていない。  生前の自分は……たぶん、それなりに幸せだったと思う。  そう、最期の瞬間までは。  包丁が脇腹に突き刺さって、すごく痛くて熱くて……そして凍えるように身体が冷たくなっていったのを覚えている。  そして、何かを後悔した。  このままあの世に行くのは嫌だ。そんなことを思いながら、陽子は死んだ。  そして気が付くと、セーラー服姿で図書館に浮かんでいた。  私はこの図書館で殺されたのだ。そのはずだ。でも

        • 🌻ショート(前編)初恋少年と幽霊JKの後悔。

           典型的な田舎のこの町には、どこまでも続く田園地帯がまずあり、そしてそれを囲うように、杉のような、日本ではお馴染みの木々が植林された山々が広がっている。どこもかしこも「日本」を感じる風景だ。  数少ない例外が図書館で、駐車場や建物の周りに、外国のよく分からない気が何本も植えられている。同じ緑いっぱいの光景だけど、そこだけ人工的で都会的な……大人びた雰囲気を感じるから、健也は図書館が好きだった。  低学年の頃は図書館の前で時々一人遊びに耽っていて、それから成長し、小6になった今

        🌻ショート(前編) 珈琲とゴミ屋敷 

          🌻ショートショート 「鉛筆先輩とシャーペン後輩」

          「ふん、お前が新入りか」  その日、新しく筆箱に転がり込んできた青いシャープペンシルに、古株の鉛筆が声をかけた。随分と短くなった、緑色の定番の鉛筆だ。 「俺たち鉛筆より妙にメカメカしいな。……この筆箱の持ち主は、なかなかにヤンチャな坊主だぞ。いつまで持つかな?」  鉛筆の嘲るような発破に、青いシャーペンが鼻を鳴らした。 「鉛筆ってなんで廃れないのかしら? そろそろ全部シャーペンでいいと思うのだけれどね」 「なっ……」  シャーペンから聞こえてきたのは、生意気な口調の、若い女の

          🌻ショートショート 「鉛筆先輩とシャーペン後輩」

          ショートショート 因幡の白兎(裏)

          「人魚姫が、人魚姫が来たよ~!」  白い背が野原をぴょんぴょんと跳ねる。燕尾服を着た兎が、人魚姫の来訪を知らせるべく王宮へと向かっていく。 「えっ、姫様?」「人魚姫?」  燕尾服の兎の声を聞きつけ、周囲からどんどん兎たちがやってくる。  鍬を担いでいるもの、猟銃を持っているもの。子供を連れた夫婦。……服を着た色んな兎が、そこに現れた。  そこは兎の国だった。 「……かわいらしいですね、姫様」  人魚姫に付き従う侍女がそう囁くが、人魚姫は興味なさそうに「そうね……」と言うだけだ

          ショートショート 因幡の白兎(裏)

          久しぶりの日記。

           ふと書きたくなったので、久々に筆(?)を取ってみた。  一回体調不良で毎日投稿を止めて以来、noteの更新が何だか途絶えがちになってしまった。  元々フリーライターにちょっぴり興味があって、「金欲し〜、副収入欲し~」という理由でnoteを始めたから、フリーライターへの興味が失せ(ランサーズも退会した)、noteで金を稼ぐの……ムズくね? と気付いた今では、noteを続ける理由はなんだか楽しいから、という理由しかなくて……。   毎日投稿にこだわった結果疲れてしまって、病気

          雨音に 目を閉じ惜しむ 桜散るなと

           今年は桜が満開になる時期を見計らうかのように、しとしとと雨が降ってしまった。  日本晴れの下で見る桜もいいが、雨空の下で見る桜も綺麗だな、と思うのと同時に、でもこれで桜が散ってしまうな、と惜しい気持ちにもなった。  今年も少し遠出して、市内で有名な桜の名所に行こうと思っていたけど、雨を理由に行く日をずらし……結局、今年はそこには行かず、家の付近を散歩して桜を見るだけになった。  今こうして句を詠んでいる時、部屋の外では雨が降っている。  夕方には、朝よりもっと桜が散って

          雨音に 目を閉じ惜しむ 桜散るなと

          流るる 水の音若草 ひょっこり

           ここ数日雨が凄い。そのおかげで道路脇の側溝から、コポコポと水の流れる音が絶えず聞こえてくる。  その一方で、こんな日でも水が流れているようには見えない側溝もある。  中には土が溜まり、雑草が生え、その上に枯れ草が詰まっている。いや、正確には詰まっていた。  年末年始の頃は枯れ草が詰まっていたが、3月も終わりの頃になるとかなり消えた。何処かに飛んでいったか、崩れて分からなくなってしまったのだと思う。  雨を滴らせつつ、いつの間にか消えた枯葉のかわりに、ひょっこり現れた雑草

          流るる 水の音若草 ひょっこり

          春先に 汗が止まらぬ インドカレー

           近頃の暴飲暴食のせいか、食べたいものが思い浮かばずに繁華街をウロウロしていたら、ちょっと遠い所にある中華料理のお店を思い出した。  店内で日本語が聞こえてこない……中国人客ばかりの所謂「ガチ中華」で、前行った時美味かったのだ。  カランコロン、と最近は逆に聞くことがなくなったベルの音を鳴らして店に入ると、あいにくカウンターは留守だった。  この店、美味いし店内も綺麗なのに謎に客が少ない。ちょっと奥まった所にあるし、なんだか馴染みの客が集まったアットホーム感のある店だから、

          春先に 汗が止まらぬ インドカレー

          ストレスを 食にぶつけて 腹ぷくり。

           春は何か新しいことがやりたくなる季節だ。  ……そんな言葉を幾度となく耳にしてきた。   寒さが遠のいて過ごしやすい季節になってきたから、脳内の大半を占めていた、 「寒いなぁ……」  という気持ちが薄れて消えて、その空いた空白を埋めるものを探しているのかもしれない。  そんなわけで春は何か新しいことをしたくなるんだけど、同時にそんなふわふわした気持ちのせいか、春先は謎にストレスが溜まる。  何か新しいことがしたい! でもうまくいかないかもだし、メンドクセー……。  そ

          ストレスを 食にぶつけて 腹ぷくり。

          寝床にて 心弱りて 自問自答

           身体を壊して丸二日ほど寝込んでいると、布団の中で色んなことを考える。  人生、これでいいのか、とか。俺ってダメだな、とか。  体が弱るから心も弱って、ネガティブな考えが増える一方で、忙しなさとは無縁の時間を過ごすから、純粋に、いつもとは違う視点から物事を考えられるようになった。  今の仕事を続ける意味。  アラサーの焦燥感に負けず、どっしりと物事を考え動くべきか、とか。    今していることについて、習慣だから、それが仕事だから、という視点が薄れて、一歩後ろから考えるこ

          寝床にて 心弱りて 自問自答

          連続投稿約40日目 食あたり? でストップした話。

           その日は立ち眩みがしたり、朝からどうにも体調が良くなかった。  仕事が忙しくて疲れてもいたし、コンディションがいいとは言えない状態ではあったと思う。  それも良くなかったんだろう。  仕事帰りに駅近くでハンバーガーを食った辺りから、腹に違和感を感じ……結果的に、俺はnoteを休むことになった。  自宅近くの最寄り駅を降りた帰りの道すがら、いつもと違って壁や手すりにもたれかかりながら、とろとろと帰り。  結構しんどかったのでnoteを書くのは後にして、家に着いてすぐまず仮眠

          連続投稿約40日目 食あたり? でストップした話。

          春の朝 惰眠貪り 缶チューハイ ♯俳句

           週末の朝。いつもは寒くて布団の中から出たくないのだけど、今日は違った。  朝イチだというのにあんまり寒くない。とうとう春が来たのだ。  毎日noteを書いているとネタに困り、いつの間にか季節の変化に敏感になっている気がする。季節の変化を感じれば、それで一本書けるからだ。  寒くなったり暖かくなったりを繰り返していたが、今日はもう流石に春だろ、と思いつつ、でも布団からは出なかった。  週末だし、先週は不可解なほど仕事で疲れてしまったのだ。  スーパーで買ってからそのまま

          春の朝 惰眠貪り 缶チューハイ ♯俳句

          【小説 起】ここではない世界

           カウンター席に置かれたコーヒーサーバーから哀愁が漂う。 「……漂って欲しいのは匂いなんだけどな」  青年の呟きが、無人の都市の、無人のカフェにこだまする。  持ち上げると、コーヒーサーバーの中にある黒い液体が左右に揺れた。それを飲む気には、流石になれなかった。  青年が宙に向かってコーヒーサーバーを傾ける。  注がれた黒い液体が床に落ち、木製の床に染み込んでいく。  コーヒーサーバーを落とすと、パリンと音が鳴ってガラスが割れた。  青年は背負っていたリュックからペン状の道具

          【小説 起】ここではない世界

          講習で モチベが上がって 現場で落ちる

           今日は川柳。……いや、講習って春の季語かな?  ちょっと前に、ひっさびさに資格試験の講習を受けてきた。  すっかり忘れつつあった実務とは無関係な知識を突っ込まれて、職人としてのスキルアップ、ステップアップの話をされて、この業界に入った頃の記憶が呼び起こされた。  ……懐かしい。俺も、もっと意欲的にスキルアップしないと。  そんな思いは、会社に戻って間も無くごっそり削り取られた。  面倒な先輩への対応、いまスキルアップしたいこととは違う、簡単な作業の山……。  それらを

          講習で モチベが上がって 現場で落ちる