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この世は涙 嗚咽の海。

 フレーバーテキストという言葉を聞くと、知らない人は何をイメージするのだろう?
 「フレーバー」の「テキスト」だから、香りの説明だろうか。
 知らない人のために説明すると、これはカードゲームにおける「世界観を表現する短い文章」のことだ。

 デュエルマスターズとか遊戯王とか。こういうカードゲームには名前やイラスト、効果のほかに「フレーバーテキスト」がついているものがある。

 内容は様々だが、そのカードのキャラクターや種族を紹介するもの、物語の舞台となった世界のことや、今起こっている物語を書いていることが多い。

 これが結構面白くて、自分は遊んでいないカードゲームでもたまにフレーバーテキストを調べたりする。
 YouTubeで調べると、こういったことをまとめた動画が何本かヒットするのだ。

 それぞれのカードにはゲームを遊ぶための様々な情報が書き込まれていて、一枚のカードの中でフレーバーテキストに割ける面積には限界がある。
 そこで余計なことを排除した簡素な文章にしたり、意味深でハイセンスな文章にしたり、皮肉混じりのジョークを飛ばしていたりと短い中に個性を詰め込んでいる。

 自分が好きなのは、シャドウバースというゲームの「グランドナイト・ヴィルバート」というカードだ。
 純白の服を着込んだ眼鏡の美青年で、両手に大きな剣と盾を持つ、薄幸の英雄だ。

 『祈りに、夢に、希望に圧され。
溺れて沈むは避けられず。
せめて残そう……淡き底に、儚き砂紋を。
――この世は涙、嗚咽の海。』

『願いは重石。涙は鉛。
藻掻くことさえ許されない。
英雄とは……底に誘う、錘の名だ。
――この世は涙、嗚咽の海。』

 ……どうだろうか?
 たぶん、一見しただけではよく分からないと思う。
 このカードのフレーバーテキストは、一枚では完結していない。彼の仲間たちを集めることで、ようやく全貌が明らかなる。そういう工夫がされたカードだ。

 簡単にまとめると、彼は絶望的な状況の世界で立ち上がり、多くの犠牲を出しながらも敵を倒し続け……最終的に、ゲームでいうところの魔王(ラスボス)を倒した末に、状況を覆すことは不可能であり、今までの踏ん張りも犠牲も、全ては無意味だったと知る、そういう話だ。

 仲間達のカードには、彼がみんなを守るために強くあろうと決意し、一人称を僕から俺に変える描写や、四天王ポジションの敵を犠牲出しつつ倒した時の心情が語られている。
 最初は敵を倒した達成感や、仲間達と共に喜びたかったな、という寂しさが綴られているが……次々と敵を撃ち倒していくうちに、それは何人犠牲にした? 俺のどこが英雄なんだ? と後悔に変わっていく。

 そしてラスボスを倒し、もうこの世界はどうしようもない、全ての努力と苦悩は無意味だったと知った時の心情を綴ったのが、おそらくこのカードのフレーバーテキストの正体だ。
 仲間の死に、人々の祈りに応えてやれない絶望感。だけどせめて、儚き砂紋を、抗ったという意思だけを残したい。きっと、そんな所だろう。

 カードを集め状況を知ることで、意味深なポエムの真実が分かる。……自分がこのカードを好きな理由だ。

 もしこれを読んで興味が湧いたら、ぜひネットで フレーバーテキスト 秀逸 とでも調べて欲しい。きっと気にいるものがあるはずだ。

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