仏教の天部

【天】
 仏教に取り入れられた古代インドの神々を「天」と言います。通常、天と呼ぶのは、デーヴァ系の神々のことです。デーヴァとは、サンスクリット語で「輝きを発する者」と言う意味だとされています。例えば、インドラ「帝釈天」、スーリヤ「日天」、ヴァーユ「風天」、アグニ「火天」などがデーヴァです。天は、自然現象の神格化、または、自然の構成要素だとされています。そのため、天地万物の主催者として、人間の運命をも左右するとされました。   

 天には、空を飛ぶ神通力があり、老いることがなく、きわめて長寿ですが、不死ではありません。また、天には、煩悩があります。そのため、悟りを開いた仏ではありません。なぜなら、仏には煩悩がないからです。位置的には、仏と人間の中間だとされています。天も、衆生の一つにすぎません。衆生とは、煩悩を持った一切の生き物のことです。ちなみに、天には、性別がありますが、如来、菩薩、明王のような仏にはありません。仏像の天は、天部「てんぶ」に属してます。部とは、グループのことです。仏像は「如来」「菩薩」「明王」「天部」という4種類に分かれています。

【種類】
 天には、仏教の守護と現世利益という役割があります。主に、仏教を守護するのが「武神」です。武神は、外敵から仏教を守るため、甲冑を着て、武器を持っています。そのため、武将のような姿です。「帝釈天」「四天王」「薬師12神将」などが武神だとされています。薬師12神将は、もともとは夜叉でしたが、仏教に帰依しました。夜叉とは、恐ろしい鬼神のことです。
 人々に現世利益を施してくれる天を「福神」などと言います。福神は、たいてい美しい女神です。通常、貴婦人風の服装をした天女のような姿をしています。代表的な女神が「吉祥天」「弁財天」「荼吉尼天」などです。美しくはありませんが「鬼子母神」も女神だとされています。鬼子母神は、もともと夜叉でした。夜叉は、人間を食べることがあります。鬼子母神も、自分の子供を多く産むため、人間の幼児を食べていました。しかし、釈迦の説得によって、改心してそれをやめたとされています。
 名前が菩薩ですが「妙見菩薩」も天です。妙見菩薩は、中国の星辰思想が由来だとされています。そのため、インドではなく、中国由来の神です。妙見菩薩は「北極星」または「北斗七星」の神格化だとされています。妙見とは「善悪」「真理」を見通す優れた視力のことです。

【天界】
 天は「天人」「天衆」とも言います。天人と、その眷属が住む世界が天界です。天界は、人間の世界より、苦が少なく、楽が多いとされています。ただし、極楽浄土のことではありません。極楽浄土とは、煩悩がない悟りの世界のことです。天界にも、煩悩があります。煩悩とは欲望のことです。仏教では、その欲望から自由になることを悟りと言います。
 天は、六道輪廻説における六つの世界の一つです。六つの世界「六道」のうちでは、最も善い世界とされています。六道は「天」「人間」「阿修羅」「畜生」「餓鬼」「地獄」の六つです。全ての衆生は、この六道を巡っているとされています。ただし、天には、連続して生まれ変われません。


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