見出し画像

クリムトと「ウィーン分離派」

【ウィーン分離派】
 グスタフ•クリムトは、ウィーン最大の画家であり、典型的なウィーンっ子です。クリムトは、ウィーン分離派を創設し、初代会長となりました。ウィーン分離派は、新たな造形表現を目指すグループであり、モダンデザインの先駆です。彼らは、古典や伝統を重んずる美術からの分離を目指しました。その最終目的は、型破りな若手の発掘とその作品を展示することです。当時の帝政オーストリアは、衰退しており不安な時代でした。その時代を反映して、クリムトの作風は官能、退廃的です。しかし、ウィーン分離派が、守護神としたのは、貞潔な古代ギリシャの女神アテナでした。

【アール・ヌーヴォー】
 クリムトは、アール・ヌーヴォーを代表者です。アール・ヌーヴォーとは「新芸術」と言う意味で、伝統に反対する芸術運動のことをさします。その特徴は、装飾性のある平面的な画面に、自然の有機的な曲線です。その対象は、特権的な貴族ではなく、一般民衆でした。アール•ヌーヴォーには、ジャポニスムの影響があります。ジャポニスムとは、当時ヨーロッパで流行した日本趣味のことです。クリムト自身も日本の物を収集しました。逆にクリムトは、日本人でも人気があります。

【性と死】
 クリムトは「エロスとタナトスの画家」と呼ばれています。その作品は、たいてい女性の裸体が題材でした。独特なエロティシズム表現が特徴です。描いたのは、官能的で妖艶な美しさの女性でした。しかし彼女たちは、どこか死の香りを感じさせる女性です。当時のオーストリアでは、性の表現はタブーでした。クリムトには、同じくオーストリア出身の精神科医フロイトの影響があります。フロイトは、人間の根源的な衝動は「性」と「死」だとしました。

【ファム•ファタル】
 クリムトは「ファム•ファタル」をテーマとしました。ファム•ファタルとは、男を破滅させる魔性の女のことです。彼女たちと運命的に赤い糸で結ばれていると感じるため、宿命の女とも呼ばれています。例えば、文学や絵画などに登場するサロメ、キルケなどです。ファム•ファタルは、たいてい魅力的な容姿しているので、男性を意のままに操ることが出来ます。自由奔放な生き方で、さんざん男性を振り回しますが、ファム•ファタル自身には、男性を破滅させようとする意図はありません。お金を浪費したり、複数の男性と恋愛を繰り返すので、結果的に男性が破滅してしまいます。

【ユディット】
 クリムトは、旧約聖書外典に登場する「ユディット」をファム•ファタル的に描きました。ユディットは、美しい未亡人でユダヤ人の英雄とされます。彼女は、敵国アッシリアの本陣に乗り込み、酔いつぶれた将軍ホロフェルネの首を剣で切り落しました。しかし、将軍に近づくために、色仕掛けで迫ったわけではありません。彼女は、神に対する強い信仰心の持ち主であり、人々からは尊敬されていました。ユディットの逸話は、もともと民族意識高揚のための伝説であり、実在の人物ではないとされています。クリムトは、ユディットを独自の解釈で描きました。

【黄金時代】
 クリムトには、多くの富裕層のパトロンがいました。セレブたちの注文を受け、金箔を使って描いたのが、彼らの肖像画です。金を多用していたので、この時期の作品は「黄金時代」と呼ばれています。金箔の使用は、モザイク画や日本の琳派の影響です。黄金時代の代表作である「接吻」は、クリムトの作品中では、最も有名でした。接吻には、抱き合う男女が描かれていますが、そのモデルは、クリムト自身と恋人エミーリエ・フレーゲだとされています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?