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ツキノワグマと「人身事故」

【人身事故と環境の変化】
 ツキノワグマは、基本的に、臆病な動物なので人間を恐れています。そのため、自ら近寄って来ることは、ほとんどありません。しかし、近年、ツキノワグマによる人身事故が多発しています。本来、ツキノワグマは、わざわざ人間を襲う動物ではありません。ただし、人里に降りて来たツキノワグマは、パニック状態になっており攻撃的です。そもそも、ツキノワグマは、やむを得ず人里に来ています。なぜなら、人間の生活が動物の生活環境を変えてしまったからです。 
 戦後、ツキノワグマの生活環境が変わりました。もともとは、相当奥山まで入らないと、その姿を見ることは出来なかったとされています。ツキノワグマの生活環境を変えたのは、戦後の復興政策です。当時、建築材として、需要があった杉やヒノキが山に植林されました。杉は、山の七割に植えられたとされています。ツキノワグマは、広葉樹林に適応した動物です。そのため、杉やヒノキなどの針葉樹林では、生きていけません。山に針葉樹が増えたことによって、ツキノワグマにとって、住みにくい環境となりました。 


 【過疎高齢化】 
 過疎化も人身事故の要因の一つです。日本は、高度成長期に入ってから、地方の過疎高齢化がすすみ、集落の人影が少なくなりました。本来、野生の鳥獣は、人がいればあまり近付いて来ません。しかし、過疎によって、人が減ったため、集落にも鳥獣がやって来るようになりました。また、人がいなければ、里山の手入れがされません。そのため、里山が荒廃しました。そうした集落に残るのが、摘果されないままの柿や栗です。ツキノワグマは、それを目当てにやってきます。本来、ツキノワグマは、人間を怖がる動物です。しかし、冬眠に備え、たくさん食べなくてはいけません。そのため、仕方なく民家の近くまでやって来ます。人里で遭遇するのは、そうしたツキノワグマです。それが人身事故の原因となっています。


 【隠れ家の増加】

 針葉樹の植林によって、本来の生息地である広葉樹林が減りました。広葉樹には、ツキノワグマの餌となるドングリなどの堅果類がなります。その餌が減ったために、ツキノワグマは、集落へも来るようになりました。その集落には、ツキノワグマの食べ物となる農作物などがあります。ツキノワグマは、学習能力が高い動物です。食べ物の味を覚えると、また来てしまいます。
 ツキノワグマの隠れ家が増えたことも、人身事故の要因の一つです。人がいなければ、草刈りなどの手入れがされません。草が繁っていれば、ツキノワグマが隠れられる場所が増えます。ツキノワグマは、隠れることを好む動物です、そうした環境が、ツキノワグマを来やすくさせました。そこで、隠れていたツキノワグマとバッタリ遭遇してしまいます。それを防ぐために必要なのが、人里の手入れです。

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