【羅刹天】
　羅刹天は、もともと「羅刹」という鬼神の主でしたが、仏教に取り入れられて、煩悩を食べ尽くす護法善神とされました。護法善神とは、仏教や仏教徒の守護神のことです。羅刹天は、仏教では「12天」に属しています。12天では、西南の守護者です。羅刹天は、単独としての信仰が広がりませんでした。羅刹と似た存在が夜叉です。夜叉も鬼神ありながら羅刹と同じ護法善神で、共に毘沙門天「クベーラ」に仕えています。
　夜叉は、森林に住む神霊で、特に樹木と関連がありました。男女の区別があり、男が「ヤシャ」、女を「ヤクシニー」と言います。大乗仏教の「天龍八部衆」や「12神将軍」の一人です。現実的には、羅刹が、インド南方にいた原住民で、夜叉が北方にいた原住民だとされています。

【羅刹】
　羅刹とは、サンスクリット語の「ラクシャーサ」の音写です。古代インドでは、鬼神の代表で、神々の敵とされています。そのため「破壊」「滅亡」「不幸」などの化身とされました。羅刹は「恐ろしい」や「残酷な」なものの象徴とされています。羅刹天は、その羅刹の主です。もともと羅刹は、自然の精霊で、神通力にすぐれ、足が速く、怪力の持ち主でした。人を魅了して食らう人食人種で、夜になると、徘徊して人間を食ったとされています。その時、食べられる人間の善悪は問いませんでした。羅刹にも性別があり、男を羅刹婆「らくしゃさ」、女を羅利払「らくしゃし」と言います。女性の羅刹では、西遊記の「羅刹女」や法華経の「10羅刹女」などが有名です。
　羅刹は、日本の鬼や地獄の獄卒のモデルだとされています。図像の羅刹は、全身黒い肌です。服装は、甲冑着て、髪冠を被っています。右手に持つ剣は、煩悩を断ち切るためのものです。左手の方は、剣印に結んでいます。その羅刹の乗り物とされるのが白獅子です。

【ラーヴァナ】
　羅刹天のモデルは、インドの叙事詩「ラーマヤナ」に登場するラーヴァナだとされています。ラーヴァナは、ランカー島「セイロン」を本拠地とする羅刹の王でした。ランカー島の民もまた羅刹だとされています。ラーヴァナは、体が大きく、10個の頭と20本の腕を持ち、目と口からは、火を吹くことが出来ました。その武器は、チャンドラハース「月の刃」という剣です。従兄弟のクベーラからは、魔法の戦車プシュパカを奪って所持していました。
　ラーヴァナの祖父は、創造神ブラフマーです。ブラフマーからは、恩恵として神々と戦う時、無敵となる能力を得ていました。さらに、ラーヴァナは、アムリタを採取し、不死にもなっています。その力によって、神々のインドラやスーリヤを敗走させました。死者の王ヤマと戦った時は、ブラフマーが仲裁しています。なぜなら、ヤマが、相手を即死させる杖を持っていたので、もしそれでラーヴァナが死ななかったら、お互いの能力が矛盾してしまうからです。人間に対しては、無敵ではなく。人間の王アルジュナには、敗れて捕えられています。最終的には、ヴィシュヌ神の化身ラーマ王子に討ち取られました。