虚空蔵菩薩と密教

【虚空蔵菩薩】

 虚空蔵菩薩は、サンスクリット語で「アーカーシャカルバ」と言います。アーカーシャカルバとは「空っぽの母体」と言う意味です。虚空蔵菩薩は、右手を「与願印」に組んでいます。与願印とは、迷う人々の願いを聞き入れ、それを叶えてくれることを意味する印相「指の組み方」です。また虚空蔵菩薩は、仏教で最も尊いとされる結跏趺坐「けっかふざ」という座り方をしています。虚空蔵菩薩が、右手に持つのが智剣で、左手に持っているのが「如意宝珠」です。智剣は、仏の知恵の象徴で「如意宝珠」は「意のままに願いを叶える宝」のことだとされています。虚空蔵菩薩は、その如意宝珠を仏閣化した菩薩です。如意宝珠は、サンスクリット語で「チンターマニ」と言います。チンターが「思考」で、マニが「珠」という意味です。虚空蔵菩薩は、あらゆる願いを叶えてくれるとされています。特に芸術の御利益があるとされました。そのため、職人や芸術家の守り本尊とされています。虚空蔵菩薩の「使者」や「乗り物」はウナギです。または、虚空蔵菩薩自身が、うなぎの「化身」だとされています。虚空蔵菩薩を信仰する地域では、うなぎを食べないのは、そのためです。
 虚空蔵菩薩は、無限に広がる大空のように、全てのものを包み込んむ存在だとされています。虚空とは、大空のことです。その大空のように無限の知恵を持つ仏だとされました。虚空蔵の「蔵」とは、貯蔵庫のことです。その蔵には、虚空蔵菩薩の「知恵」と「慈悲」が収まっているとされています。人々が願えば、そこから欲しいものを出してくれました。虚空蔵菩薩と対になるのが「地蔵菩薩」です。地蔵菩薩は、虚空蔵菩薩の大空に対して、大地を象徴しています。

【密教】 
 虚空蔵菩薩は、特に密教で発達した菩薩です。 密教では特に重視されており、大日如来の脇侍を務めています。大日如来は、密教において最も重要とされる仏です。密教では、悟りの世界を曼荼羅という絵で表現します。曼荼羅で表現されているのは、大日如来の悟りの世界です。「金剛界曼荼羅」と「胎蔵界曼荼羅」という二つがセットで、一つの曼荼羅だとされています。それぞれの世界には、2人の大日如来がいました。
 胎蔵界曼荼羅の虚空蔵菩薩は、虚空蔵院の主尊として描かれます。大日如来の「理」の側面を表すのが胎蔵界です。理とは、慈悲のことだとされています。それに対し、大日如来の「智」の働きを表すのが金剛界です。金剛界の虚空蔵菩薩は「五智如来」の変化身だとされています。五智如来とは、虚空蔵菩薩の徳を五つに分け、それを五体に分けた仏です。

【虚空蔵求聞持法】
 密教には「虚空蔵求聞持法」という集中力を増大させる暗記法があります。そこから、虚空蔵菩薩には、記憶力増進の御利益があるとされました。虚空蔵求聞持法「ぐもんじほう」では、虚空蔵菩薩の真言を、百日間で百万回唱えます。真言宗の開祖である空海も、修行中に虚空蔵求聞持法を行いました。空海が、真言を唱えている時、口の中に「明星」の化身が飛び込んできて、悟りを開かせたとされています。その瞬間、視界に映っていたものが空と海でした。そこから「空海」と名付けられたとされています。虚空蔵菩薩は、その明星天子「明けの明星」の化身です。明星天子は、星を神格化した神だとされています。そのため、虚空蔵菩薩は「星宿」や「日月」などの星神信仰とも深い関係がある仏です。

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