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20230212 探偵ロマンスなんて大好きだ

探偵ロマンスが終わってしまった。全4回で、江戸川乱歩が作家になる前日譚を描いたNHKドラマである。

舞台は今から約100年前の帝都。主人公平井太郎(のちの江戸川乱歩)は日銭を稼がなければならない身の上に鬱屈した日々を送る作家志望の青年だ。

そんな太郎が引退した名探偵・白井三郎と出会い、彼に惹かれて助手となり他者の世界に飛び込んでいく。

「人は結局わかりあえないのだと思います。だから手を伸ばして知ろうと思います」

うまくいかない現実に苛立ちを覚えていた太郎が、人と人は分かり合えないからこそ自分で他者の世界歩み寄ろうとする。白井三郎は太郎の見ている世界、書く物語が読みたいと思う。わからないものを知ろうと手を伸ばすバディものなのだ。

その一方で、本当の自分のことを知ってほしいと願う人間もいる。どこにも吐き出せない思いを抱えた美貌の踊り子お百と太郎の同居人初之助だ。

お百が艶やかな美しい男性であることも、初之助が体が弱く字を習えない環境で成長したことも、たまたまそうだっただけなのだ。でも彼らは自分の居場所を感じることができない。

知ろうと相手に手を伸ばそうとする二人。自分を知ってほしいと願う二人。そしてそれを利用しようとする人間。たくさんの関係者と世間の人々。「知る」を舞台として人の思いが交錯していく。

発言の一つひとつに力を感じる脚本。太郎の作家志望らしいセリフ。赤と黒が印象的な色使い。時代を感じさせる建物。一枚絵になるような光の入りかた。太郎と三郎の正装。丁寧で贅沢な映像体験だった。


「何を美しいと思うかにその人間の生き様が表れる」


そう貿易商の住良木はドラマのはじめに言う。私は探偵ロマンスを終わった後も繰り返し見たくなるような作品にまで昇華させた制作スタッフとキャストの姿勢と努力と根気をとても美しいと思う。ありがとうございました。続編お願いします!

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