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【超ショートショート】(246)~4分21秒のラブストーリー~☆ASKA『お・や・す・み』☆

学生の頃は、
好きな音楽を聴いても聴いても、
有り余る時間があった。

一曲一曲の歌の世界を旅することも出来た。

いつものように、
帰りの通勤電車で音楽を聴いていた。

学生の頃も同じ路線の電車。
車窓の景色は、
電車の早さではあの頃と同じまま。

一つだけ違いがあった。
誰もがスマートフォンを眺めていることだ。

自分も・・・
学生の頃は車窓の景色と音楽で
たそがれていたのに、
今ではスマートフォンが
自分の視線を独り占め。
たそがれることも忘れてしまった。

今朝のこと。
いつもと違う鞄に荷物を移したことを
すっかり忘れていた。
必ず持参する予備の充電器を
入れ忘れていることを確認し忘れた。

結局、
帰りの電車に乗る前に充電が切れた。
手持ちぶささになった所で出来ることを
探すと、学生の頃から愛用している
ウォークマンを思い出し、
とりあえず聴いてみた。

車窓の外は、夕焼け色のきれいな
冬のオレンジ色のグラデーション。

ふと飛び込む歌詞
「このひと時よ止まれと願うのは
勝手な想いだろうか」

こんなにきれいな景色を見たのは、
久しぶり過ぎて、
妙に感動した気持ちと歌詞がリンクした。

それから、
過去、時が止まってほしいと思った時はないかと
意識を過去へと戻らせた。

すると、
この電車に乗っている自分を思い出す。

あの頃は片思いをしており、
その恋心も周囲にはバレていた。

でも、だからといって、
実る期待もなかった。

毎日、友達として楽しく過ごせれば、
それだけで良かった。

ただ、恋に臆病だった。

社会人になってから、
その頃のクラスの同窓会があった。

もちろんその人もいた。

誰もが近況報告の恋話をするなかで、
クラスで一番の世話好き女子という表の顔と、
実は噂好きの女子が、
あの頃の片思いは両思いだったと、
突然暴露する。

お酒も入り、
また噂話だと誰もが信じたが、
その人は、その話に静かに微笑みながら
うなずいた。何度も何度も。

あの頃、
帰り道が正反対のふたり。
突然一緒に帰ろうとその人が誘った。
でも、帰り道が・・・
と尋ねると、今日は用事があってと
同じ電車に乗ることになった。

電車で約4分ほどの一駅分、
その人と過ごした。
初めて二人っきりになった。

ふたりは何かを話すこともなく、
緊張をお互い知られまとし、
ただ顔を見ては苦笑いの繰り返し。

そして、
その人が降りる駅が近づくと、
「この曲聴いてみて!私好きなんだ(笑)」

手渡された小さな紙袋には、
話の通り、CDと小さな箱が入っていた。

急いで家に帰ると、
その小さな箱には、
手作りのショコラが入っていた。

まだこの時、
バレンタインの1週間前だった。

そしてその夜、
CDを聴いた。

その頃、クラスでは、
好きなアーティストは誰という話題で、
毎日誰かがものまねをしていた。

その人も好きなアーティストはいたけど、
恥ずかしいと教えてはくれなかった。
でも、
好きな人には教えるとも話していた。

それから、
あの噂好きの女子がその人の話を
教えてくれたときがある。

「好きな人には、
自分の好きな歌を歌ってほしいんだって!(笑)」

彼女が伝えたかった意味がわからなかったが、
変なドキドキは感じていた。

その人と一緒に帰った翌日、
学校に行くと、その人は欠席。

その理由を朝の挨拶をする担任から、
報告された。

「◯◯は転校した」

クラス一同どよめくなか、
あの噂好きの女子だけは余裕な表情でいた。

昼休み、
その女子がこんな話をした。

「本当は卒業まで転校したくなかったみたいなの。
でも、どうしても一緒に引っ越すと、
家族の人に言われて、泣く泣く転校したのよ!
きのうプレゼントもらったでしょう?
チョコも。あれ私も一緒に作ったのよ!
どうだった?美味しかった?(笑)」

チョコと一緒に入っていたCDについて聞いた。

「それはね・・・前にも話したでしょう?
忘れたの?(笑)」

忘れたとうなずくと、

「その曲をあなたに歌ってほしいんだって!(笑)」

それ以上話を聞くことはなかった。

恋が、
実ったような、実らなかったような、
失恋したわけではないけど、
失恋したような気分に、
帰りの電車、夕焼けを見ながら、
その人が好きな曲を聴きながらたそがれた。

スマートフォンの電池切れで、
久しぶりにたそがれた通勤電車から降り、
何十年と歩く帰り道。

頼まれていた牛乳と玉子を買って、
おやつにケーキを4つ買った。

帰宅すると、
自宅の電気は消えたまま。

急いで暖房をつけ、部屋を暖めた。

帰宅から1時間後、
玄関が開く音。

夕食後に並ぶケーキは4つ。

夜9時、
子守唄に、あの歌を歌う人がいる。

いつも話すんだ。

「それは大人な歌うだろう?
まだ早いんじゃないか?」

すると、

「いいの(笑)」

夜12時、
寝室に向かうと、
キラキラした瞳の人が、
腕の中にもぐり込み、

「歌って!」

とせがむ微笑み。

歌の最後に

「じゃあ、おやすみ!」

というと、
瞳を閉じたまま嬉しそうに微笑んで、
眠むる。

そして、
その微笑みを子守唄に眠る。

夢の中、
一緒にあのまま電車に乗り、
たそがれの夕焼けのグラデーションを
ふたり眺めた。

(制作日 2022.2.8(火)ゃ)
※この物語はフィクションです。

今日は、
2月10日が発売記念日の
ASKAさんのセルフカバーアルバム『12』

収録曲の『お・や・す・み』を
参考に書いてみました。

この『12』のアルバムでは、
新しいアレンジとなり、
曲の最後に「おやすみ」とセリフが
ASKAさんの声で収録。

その点もこの曲の新しい魅力となっています。

そのことをお話の最後のようすに、
書いてみました。

挨拶をすることのない、
今の日常で、 例えCDでも、
好きな人に「おやすみ」と言われる幸せ。
なんとありがたいことかなって思います。

(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

~~~~~~

参考にした曲
ASKA
『お・や・す・み』
作詞作曲 ASKA 編曲 澤近泰輔
☆収録アルバム
ASKA『12』
(2010.2.10発売)

 


 


 


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