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【超ショートショート】(77)~可哀想なお兄ちゃんに幸せを~☆シングル・ベッド☆

17歳の夏。
僕らは、僕のバイクで京浜島つばさ公園へ、
羽田空港に離着陸する飛行機を見に行った。

夕焼けのそよ風に君が、
夏の終わりの話をしたね。
「宿題できたの?」
の質問に、笑顔で「No!」と答える僕を、
君は嬉しそうに笑ったね。
「やっぱり、私がいないとダメね!」って。

僕らの出会いはサッカー部。
僕は2年になると、
君が1年のマネージャーとして入って来た。

「柴咲先輩が、
私を勧誘したの覚えていませんか?」

「いやー、ごめん!(笑)
覚えてないや!(笑)」

「ヒドイ!(涙)」

僕の第2印象は最悪だった。
2年のマネージャーの優子が、

「柴咲は、女に目がなくて、
手当たり次第にナンパするから、
あまり信用しちゃダメよ!(笑)」

そんな適当なアドバイスを君は信じた。

僕らが二人で出掛けても、
それは恋人ではなかった。
お互いに告白もしなかったから。


18歳の春。
僕の卒業で、一応の別れを迎えた。

19歳の夏。
母校のサッカー部の試合を見に行った。
この試合で3年の引退の日となる。
マネージャーの君の引退の時でもあった。

それから1週間後、
君が話があるとメール。

また僕のバイクで、
京浜島つばさ公園にやって来た。

あの17歳の夏のように、
そよ風が夏の終わりを感じさせた。

「柴咲先輩!」

「うん。」

「あの~、今、彼女いますか?」

「いないよ!」

「あっ!良かった!(笑)」

「何でそんなこと聞くの?」

「・・・・・」

2人はそのまま、飛行機を眺めていた。

空が夜色のキャンパスになる頃、
君がこう話した。

「あの、先輩?
私・・・・・先輩のことが・・・・・
好きなんです!だから・・・・・
お付き合いしてもらえませんか?
彼女にしてください!お願いします!」

僕は、驚きませんでした。
やっと君の気持ちを知ることが出来て、
飛び上がって大声出したいくらい嬉しかった。

その日から、
僕らふたりが始まった。


君が二十歳になる夏。
成人のお祝いに君は、
南の島への旅行を僕にリクエスト。

冬休み。
僕は就活で滞在する空港近くのホテルで、
明日からの旅行に備えて、
待ち合わせをしていた。

でも君は、ホテルには来なかった。
何度も連絡したのに、
連絡もつかなかった。

翌朝、ルームサービスに頼んでいた
ふたり分の朝食が届く。

僕はふたり連れを装うのに、
ベッドのシーンをぐしゃぐしゃにし、
誰もいないバスルームのシャワーの蛇口を開いた。

部屋の窓から飛行機の離着陸が見えた。
君がこの景色を見たいと言うから、
夏から予約した部屋なのに。

僕は、ひとりでチェックアウトすると、
空港までの送迎のバスに乗り込む。

羽田空港第1ターミナル南ウイング
沖縄便の飛行機を待つ僕。
手元には飛行機のチケットが2枚。
もし、君が来るかも知れないからと、
窓口の係の人に話しておいた。

搭乗開始のアナウンス。
少しずつ待合所のベンチから人が消えていく。

僕が、係の女性に案内され、
最後に搭乗。

結局君は来なかった。

沖縄に着くと、
初夏のような陽気に、
冬用のジャケットを脱いだ。

「あっ!ごめんなさい。」

僕にぶつかる人の声。
落としたジャケットを拾いながら、
その人に目をやると、

「ねぇ待って~!」

笑顔の君が突然走ってきた。
それは、僕にではなく、
僕のジャケットを落とした男に。

知らない者同士を装うように、
僕と君は目で話した。

君は、嬉しそうに、
その男の腕を組み、
僕の前から消えた。


あれから数年。
僕は仕事で、
地方都市の空港近くのホテルに泊まっていた。

夕食を食べに、
ホテルのレストランへ。

夜食にコンビニで買い物をして、
ホテルの部屋に戻る。

夜11時、ドアベルが鳴る。

「どちら様です?」

「すみませんフロントの者です。」

ホテルの人だから安心して、
ドアを開けてしまう僕。

そこに立っていたのは、
ホテルの制服でもなく、
私服でもなく、
先ほどのコンビニの制服姿の君がいた。

「ここで何してるの?」

君は、瞳に涙をためて、

「ごめんなさい。あの時は。」

僕は、君の仕事が終わってから、
もう一度ここに来るように、
涙を慰めた。

夜1時。
君は私服姿で僕の部屋に戻って来た。

あの冬の沖縄で僕と別れてからの話を、
堰(せき)を切ったように話した君。

ただただ、僕と別れたことを後悔していた。

また君がこう聞いた。

「あの~、今、彼女いますか?」

僕は、君の勢いを抑えるように、
ホットコーヒーを2杯入れた。


翌朝、
僕は一人で寝るダブル・ベッドで目を覚ました。

ホテルをチェックアウトすると空港へ。
手荷物を預ける列に並ぶと、
大きなスーツケースを2個転がす君が、
僕の後に並んだ。

飛行機に搭乗すると、
「お飲み物は?」
の客室乗務員の質問に、
「ホットコーヒーを2杯」
と答えた僕。

機内の寒さに備えて、
ブランケットも2枚借りた僕。

徹夜で荷造りした君は、
コーヒーを飲んですぐ、
寝息をたてた。
ブランケットの下では、
僕の手をきつく握りしめてる。

僕はこう思った。

「どっちがナンパなヤツなんだよ!」と。


自宅のダブル・ベッドで、
久々の朝を迎えた僕。

いつもはシワもないダブル・ベッドの半分に、
やっと君が寝たね!

このベッドも、
君がほしいとリクエストしたモノ。

僕は、素肌のまま毛布にくるまる君を、
ホットコーヒーを飲みながら、
やっと眺めることができた。


(制作日 2021.8.19(木))
※この物語は、フィクションです。

今日は、
「バイクの日」ということを知り、
CHAGE&ASKA『シングル・ベッド』を参考に、
考えたお話です。

なぜ、バイクとこの曲と思われると思いますが、
この曲のメインボーカルはCHAGEさん。

CHAGEさんは、
お話を聞いていると、学生の頃、
よくバイクに乗っていたようです。

そんなお話を思い出しては、
バイクの日のお話にしました。

そして、
『シングル・ベッド』は、
とてもせつなく可哀想なお兄ちゃんが登場。
だから、
今日のお話では、
ハッピーエンドにしてあげたかった。

長いことこの曲を聴いて、
「お兄ちゃん可哀想」の思いを、
やっと解消されたような気持ちには、
まだなれていません。

最後の設定が、
まだ「お兄ちゃん可哀想」になっていないかと、
お兄ちゃんたちのその後を、
書いてる本人としても心配しています。

お兄ちゃんの彼女さんは、
ずっとお兄ちゃんのそばにいてくれることを、
願いたいと思います。
ダブル・ベッドには、 
ぜひ一緒に寝てね。


(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

~~~~~~

参考にした曲
CHAGE&ASKA
『シングル・ベッド』
作詞 澤地隆 作曲 CHAGE 
編曲 瀬尾一三
☆収録アルバム
CHAGE&ASKA
『MIX BLOOD』
(1986.9.21発売)
YouTube
【CHAGEandASKA Official Channel】
2004年「熱風コンサート」ライブ映像
『メドレー』の1曲に『シングル・ベッド』が
短く(1番のみ)公開中。
https://m.youtube.com/watch?v=hi_9Ln6u15o


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