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狂犬病ワクチンはどうなの? その8 …リスクは36万年に1度

これまで7回にわたって、狂犬病の恐ろしさ予防の大切さをご紹介してきました。同時に日本では「1年に1回」と決められているワクチン接種が本当に予防に必須なのか、愛犬たちの健康に悪影響はないのかを考えてみました。最終回の今回は、大切な家族である愛犬たちのために私たち飼い主がどう考えたいか、提案をまとめました。

「リスク・ベネフィット評価」の重要性

新型コロナ用ワクチンに世界中が注目しているように、ワクチンが存在するということは、そのお薬が対応する病気の予防が重要なことを意味しています。また、一般に流通しているワクチンは、副反応のリスクをできるだけ抑えながら十分な効果を発揮するよう、「リスク・ベネフィット評価」を慎重に行って認可されています。

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ただし、人間用も含めてワクチンには必ず副反応のリスクがあります。症状は痒みや腫れ、食欲不振や倦怠感など比較的軽いものがほとんどで、その割合も非常に低いそうです。でも、死亡や治癒の難しい後遺症もわずかながら発生しており100%の安全は保障されません

必要な病気を必要なタイミングで予防しながらも、
予防接種の頻度はできるだけ抑えるのが安心です

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狂犬病ワクチンは1年に1回が獣医学的に必須なのか?

昨年、ひめりんごが混合ワクチン接種後にアレルギーを発症し、「家族のこと」として副反応の怖さを実体験しました。今回は、もう1つ重要な狂犬病ワクチンに限定して検証してきました。

ポイントは、機械的に行われている「1年に1回の接種」

です。1回の注射で得られる免疫がどれくらい続くのかそれをどう判断するのかです。血液中の抗体を調べる「抗体検査」では狂犬病から守られているかどうかを正確に判断できないとする主張が力を持っていることがわかりました。アメリカの多くの地域でワクチン接種が法律で義務化されているのも、それが主な理由のようです

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これに対し、エビデンスを示して抗体検査の有効性と長期にわたる免疫の持続を主張する専門家がいることも分かりました。

また、抗体検査の手法はWHO(世界保健機構)が認めたものが存在します。明確な数値もあり、人間に使用する狂犬病ワクチンの効果に関する評価やワクチン再接種の判断基準となっています。さらに、輸出入においてはを含む動物にも同じ抗体検査と基準値が採用されています。

狂犬病用としてアメリカとカナダで流通している3年間有効なワクチンと1年のものとの間にはラベル以外ほとんど違いがないという専門家のコメントも少なからず見つかりました。そうした色々を考えると、

あくまで個人的なものではありますが、
本当に個人的な、
イメージではありますが、

「少なくとも」北米における狂犬病ワクチンに関する法律には、

純粋な獣医療以外の要素

が関わっている疑念があります。

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狂犬病予防の大切さ

さて、日本の話、というよりも私たちの大切な家族である愛犬1頭1頭についてどう考えるか?繰り返しになりますが、狂犬病は発症するとほぼ100%死亡する怖い感染症です。この特集の第1回でご紹介したように、海外からウイルスが入って来るリスクを100%排除することはできません。ワクチン接種そのものの大切さに否定の余地はないし、免除や猶予には慎重な検討が必要なのは間違いありません

狂犬病感染にかかわる環境の変化

ですが、日本は国内での感染がない「清浄国」です。狂犬病予防法の成立した1950年と比べれば、野犬に咬まれる事故は激減しているでしょう。反面、野良猫の数は野犬よりもはるかに多く、人間との接触機会が増えています。野生動物や野生化したアライグマなどの(元)ペットと出会う地域も増えています。

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狂犬病は犬や人間だけでなく、すべての哺乳類が感染する病気です。例えば、傷口を猫に舐められて感染するリスクは否定できません。野生動物からも感染します。アメリカでは、犬に加えて猫とフェレットにも定期的な狂犬病ワクチン接種を義務化している地域もあります。

紛れ込んだ動物が狂犬病ウイルスを広めるリスクは36万年に1度

このシリーズの第2回で、ワクチン接種の必要性を(なぜか感情的に)匿名で訴える日本の(自称)獣医師の話をご紹介しました。主な主張は、狂犬病ウイルスを海外から動物が持ち込むリスクです。これについては、昨年11月東京大学の杉浦勝明教授らによる研究結果が公表されています。

「国際貨物コンテナ迷入動物により
狂犬病が日本に持ち込まれるリスクは36万年に1度
という計算が成り立つそうです

まぁ、36万年に1度が、今年起こるかも知れないですが・・・

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でも…、今から36万年前を考えると、マンモスが歩いていた頃? ^_^;

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そんな時間軸ですが…

70年前の法律を、効果的で安全なものにする検討の必要性は?

日本の狂犬病予防法は、基本的に70年前に制定されたものです。犬に限定して1年に1度、機械的に行われているワクチン接種について再検討は必要ないのでしょうか?時代と共に変化する社会環境や獣医療の知見に合わせた規制を設けることが、人間にとっても、より効果的な予防につながるのではないでしょうか?

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また、狂犬病予防法は人間の命を守るために作られています。でも、そろそろ動物福祉の観点も少しは織り込むべき時代になってないでしょうか?

動物の福祉に関して、
終戦直後と同じ意識ですか?

医療行為としての慎重な判断が家族の命を守る

いずれにしても、現在の法律では愛犬への狂犬病ワクチン接種が飼い主の義務です。それは十分に尊重し法律は守らなくてはなりません。

そのうえで、

愛犬の体調が悪い時は、かかりつけの獣医さんと相談して注射のタイミングを慎重に決めたいですね。場合によっては、注射を避けて「猶予証明書」を書いて頂くのが必要かも知れません。

狂犬病ワクチンも混合ワクチンも、副反応の生じる割合が非常に低いことに間違いないとは思います。でも、

死に至るケースは確実に存在し、
リスクを「ゼロ」にはできません

わずかなリスクではあっても、大切な家族がその「わずか」に「含まれない」保証は「ゼロ」です。

「毎年のこと」として単なる習慣でワクチン接種をするのではなく、医療行為として真摯に慎重に向き合ってくれる獣医さんを見極めるのが大切だと思います。

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「この子たち」の健康と命は、100%私たち飼い主の判断にかかっているのです。

最後に:デラウエア州の「マギー法」

以前ご紹介したように、日本では法律上、どんな事情があっても狂犬病ワクチンは毎年打たなくてはいけません。「猶予証明」に法的根拠はありません。一方で、アメリカでは狂犬病のワクチン接種が義務とされている地域でも、「接種免除」が法律に織り込まれる州が増えています。健康上、ワクチン接種を行うべきでないと獣医師が判断すれば、その年は注射を避けられます。法的に。

昨年、接種免除に関する条項を州法に追加したデラウエア州には、以下の表現があります:

この法令は、人間を狂犬病から守ること、および、動物の福祉を確保するために行う獣医師が行う努力をサポートするものである。免許を受けた獣医師は、そのプロフェッショナルな知見に基づき、狂犬病ワクチン接種がその動物の健康を危険にさらすと判断した場合、義務とされている狂犬病ワクチン接種を免除することができる。その際、ワクチンの要否を判断する参考として、タイター量(= 抗体)検査を行うことができる。(翻訳、強調およびカッコ内追記は筆者)

この法律は、愛犬の「マギー」をワクチン接種で亡くしたアル=カサプラさんという方が起こした運動がきっかけとなって改正されました。そのシーズーの名前をとって、「マギーのワクチン・プロテクション法案」として同州議会を通過し、州知事の承認を経て正式に施行されています。