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狂犬病ワクチンはどうなの? その7 … ワクチンの違いは瓶のラベルだけ?

前回は、狂犬病ウイルスに対する抗体検査の有効性とそれに反対する意見をご紹介しました。あくまで個人的な印象ですが…、反対意見には疑念を感じました。今回は、もう1つ「大変興味深い」説をご紹介します。

興味深い話:3年間有効なワクチンは何が違う?

ご紹介したように、アメリカでは毎年の狂犬病ワクチン接種が法律で義務化されている地域と3年ごとの地域が混在しています。それに合わせるように、狂犬病ワクチンも3年間有効とされている製品と有効期間が1年のものがあります。何が違うんでしょう?

↓©Merial Inc. (メリアル社)の狂犬病ワクチン「NOBIVAC」

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違いは無い?

1年ワクチンと3年ワクチンの免疫持続期間を含む詳細については、今のところ獣医学論文が見つかっていません。

なぜだろう???
探し方が悪いんだろうとは思いますが…ねぇ…

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イロイロ探すと、一部の獣医さんが顔写真とともに氏名や所属などを明らかにして書いているウェブサイトは見つかります。そこには、「ラベルの違いだけ」とする記述が見られます。

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以前ご紹介した、
SNSに見られる匿名の日本人(自称)獣医師による
乱暴なコメントよりは信頼できそうです

「公式にはお答えできません」

カナダのクレイトン・グリーンウェイ獣医師は、「healthcareforpets.com」というウェブサイトで一般の飼い主からの質問に対して以下のように回答しています:

「ご質問にお答えしようと努力しましたが、(ワクチンの)メーカーに確認しても、2種類のワクチンが同じものか、わずかでも処方が違うかについては明確に答えてくれないでしょう。(メーカーから)研究試験の結果は幾つか示されましたが、2つの製品の違いはほとんどありませんでした。この状況から、これらのワクチンの違いを私から公式にお知らせすることはできません。私が言えるのは次の事です」

3年

「狂犬病ワクチンは法律で義務化されています。医療カルテに記録され、咬傷事故や輸出入の際に提出が求められることがあります。もし有効期間が1年の狂犬病ワクチンを(あなたの愛犬に)接種させて、2年後に『3年間有効のワクチンと同じものだから問題ない』と言っても、証明書は発行されないでしょう。医学的な議論はありますが、法律で定められているためできることはありません。常に3年間有効な狂犬病ワクチンを打つことで、接種回数を抑えることをお勧めします。このお答えが役に立てばと思います」(healthcareforpets.com)

違いは「ラベルだけ」

アメリカの「the spruce Pets」というウェブサイトでは、獣医療関係者(メリッサ・マレー動物看護師執筆、ローレン・スミス獣医師監修)がさらに率直な意見を述べています:

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「3年間有効な狂犬病ワクチンは1年のものと実際には同じです。用量も免疫反応を引き起こす物質も変わりありません。単にラベルが違うだけです。1年間有効と書かれたラベルのワクチンを接種しても技術的には3年間守られますが、法的には3年間守られるわけではありません」(the spruce Pets)

これまでに何度かご紹介したカレン・ベッカー獣医師も同様です。ウェブサイト「healthy pets」において、3年ワクチンは1年ワクチンと同一(identical)であるとし、法的に問題なければ常に3年ワクチンを選んで接種回数を減らすことを勧めています。

これまでに見えてきたことのまとめ

これまでご紹介してきたことを整理すると、以下のようなポイントにまとめられます:

1.狂犬病ワクチン接種の効果を図る抗体検査は既に行われている
2.WHOが抗体価の基準値を定め世界中で使用されている
3. 抗体検査による陽性はワクチン接種によって免疫反応が生じたことの証明
4.「陽性であることと免疫力が十分にあることを検証する手法は確立されていない」という主張がある
5.それを理由にアメリカでは抗体検査結果によるワクチン接種免除は認められていない
6.それに対して、エビデンスを提示して反論する専門家がいる
7. 人間用のワクチンにおいては抗体検査が免疫力評価に使われている
9.その他:1年ワクチンと3年ワクチンは同一だと明言する獣医師が複数いる(カナダ、アメリカ)

抗体を持っている場合は狂犬病ウイルスに晒されても発症しなかったことが犬への「攻撃試験」で証明されています。また、狂犬病以外の犬用コアワクチンでは、陽性の場合は免疫力があるということが現在の常識となっています。さらに、人間の場合は狂犬病に関する抗体検査が世界中で有効とされています。

しかしながら、「4」の狂犬病に対する免疫力評価と実際に病気から守る力との関連に関する見解が獣医療のコミュニティで統一されない限り、アメリカでも日本でも狂犬病ワクチン接種に関する免除の条項を法律に加えていくことは難しいと感じました。

個人的な印象ですが、

前回ご紹介した「難解な表現」ジョージワシントン大学による論文、今回ご紹介した「ラベルの違い」に関するエピソードなどからは、

純粋な獣医療だけでない事情
がうかがえるような気がしました

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で、何が大事なのか?

これまで7回にわたり、犬への狂犬病ワクチン接種について専門家の考えや海外の状況をご紹介してきました。次回は最後に、こうした現状を基に日本の狂犬病予防法に対する課題提起と、私たち飼い主が考えたいことについてまとめます。