人に頼ることが本当の自立につながる

2018年3月2日(金)、著書に『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)のある精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳先生と小説家・中村うさぎさんのトークイベント「現代人が抱える様々な依存」が下北沢B&Bで行われたので行ってきた。前売りチケットは全て完売で満員。そして、B&Bが移転してから初めて行った。以前の店舗よりとても広くなっていた。

■痴漢も買い物依存症も性欲・物欲からくるものではない

イベントのテーマは依存症。よく、性犯罪の裁判で「加害者は性欲を抑えられず犯行に及び〜」なんて言うけれど、「痴漢の多くは勃起しておらず性欲の問題ではない」「多くの人が抱いている加害者像をくつがえさなければならない」と斉藤先生が指摘。痴漢加害者たちにとって、痴漢のきっかけは満員電車でたまたま触れてしまい、そこからギャンブルのビギナーズラックのような快感を覚え、依存症になっているという。そして多くの女性や痴漢をしない男性からすると嫌悪感を抱かずにはいられないが「痴漢は生きがい」と語る加害者もいたそうだ。

うさぎさんは買い物依存症に陥った経験がある。うさぎさんの買い物依存症も物欲ではなく「人に認められたい」「人に羨ましいと思われたい」という欲からシャネルを買い漁っていた。もちろん、ここで買ってしまうと来月の家賃も払えなくなるから買ってはいけないと悩む。それでも買ってしまう。

痴漢は逮捕されるという危険と隣り合わせ、買い物依存症は自己破産・死の恐怖と隣り合わせ。しかし、うさぎさんは「自己破産という恐怖がなければ買い物をしていなかったと思う。恐怖があるから買い物をしていた」と語った。

痴漢は性欲ではない、買い物依存症も、物欲からくるものではないという類似点。

■依存性のキーワードは「孤独」

そして、依存と自立に関する話題に。通常、自立というと誰にも依存せずに一人でたくましく生きていくというイメージだ。しかし、脳性麻痺を抱える医師・熊谷晋一郎さんに「自立とは依存先を増やすこと」「希望とは絶望と分かち合うこと」だと言われてはっとしたと斉藤先生とうさぎさん。熊谷さんは脳性麻痺のため、人の手を借りないとトイレにも行けない。だから、自立と依存に対してうまく付き合っている。

うさぎさんはOL時代、自立に向けて経済的な自立は果たした。しかし、精神的な自立ができなかったが故に買い物依存症に陥ってしまった。自立を求めるあまり孤立してしまったのだ。

斉藤先生は学生時代ずっとサッカー部で体育会系の社会に生きていた。スポーツの世界では負けることは許されない。そのままの調子で社会人になったとき、職場の上司から「お前はこのままだと潰れる。一日に何度か周りの人に助けを求めろ」と言われた。斉藤先生にとって人に助けを求めることはとてもつらいことだった。男性は小さい頃から人に弱みを見せるなと教えられる傾向にあるからだ。しかし、人に助けを求めるスキルを身に着けてからというもの、とても楽になったという。


と、ここまではイベントのお話。ここから先は私の話。

■仕事漬けで「自立」をごまかしていた

2017年12月、私は一番死にたい時期だったのだと、こっそり動かしているTwitterの鍵付きの裏アカウントを読み返して思う。ずっと5年間、仕事仕事仕事と突っ走ってきた。趣味もプライベートもぜーんぶ犠牲にしてとにかく仕事に没頭していた。私には仕事しかないと思っていたからだ。それに仕事は楽しい。

「姫野さんにこの仕事を頼んで良かった」

「いつも原稿が速くて助かる」

「姫野さんの原稿は完璧だから編集もすぐ終わる」

「本当に仕事ができるよね」

編集さん方からのこれらの言葉が私を満たしてくれて、もっと頑張らなくては、もっと期待に答えなければと思っていた。今思うと完全にオーバーワークなのに、〆切に遅れたことなど一度もなかった。何が何でも絶対に間に合わせた。音信不通になったり原稿を落としたりするライターもいると聞くので、しっかり者だと思われたかった。

2017年11月頃から、ストロングゼロを飲むかセックスをするかでしかうまく眠れなくなっていた。

そして2018年1月某日、プライベートでのとある出来事が引き金となり、完全に潰れた。心というものはあっけなく音も立てずに崩れ落ちていく。不眠に拍車がかかり、4日寝ていない状態が続いていた。幻聴も聞こえる。部屋のどこかで女性がアンパンマンのマーチを歌っている。それでも仕事は今までどおりこなしていた。仕事をすれば私は認められる。

■初・人に頼る

しかし、このまま眠れない日々が続いたら私はしんでしまう。近所の心療内科を探して予約の電話を入れるも、一番早い予約で1週間後だった。私はあと1週間も眠れないのか……。絶望の中、2年ほど前に出会った友達で、たまにメンタルを患っているY君に入眠剤を譲ってもらおうと考えついた。(※法的には薬の譲渡はダメです)LINEをすると承諾してくれた。

眠れていないまま取材に行き、その足でY君が経営している会社の事務所へ向かった。Y君は打ち合わせ中だったので薬だけもらいそのまま帰宅。ただ、打ち合わせ相手の人が目の前にいるのに、薬を袋などに入れずむき出しの状態で渡されたので、面食らった。

その晩、薬を飲んだら心から優しい気持ちになれて、久しぶりに眠った。眠りすぎた。起きたら翌日の取材開始5分前だった。

やっちまったーーーーーーー!!!!!

今までずっと完璧だった私。こんな大失態は初めてである。

慌てて取材先に電話すると、先方が「インフルエンザですか!?」と勘違いしてくれて、快く取材をリスケしてくれたのが救い。

■心療内科を受診し、ものすごい速さで回復

一週間後、無事に心療内科の予約の日がきて、一度の治療と少しの薬で劇的に回復。数日後、ライターの先輩に仕事に関して相談。受ける仕事・断ってもいい仕事の基準・連載を持っている私がこれからやるべきことについて、アドバイスをもらった。

また、現在私のもとでアシスタント的な業務を請け負ってくれてSPA!の取材にはほぼ全部同席している駆け出しライターの青年・安里君にも頼ることを覚えた。一番幻聴がひどかった時期に週刊誌の入稿があった。この雑誌は数人のライターで手分けして記事を書いている。普段なら余裕だが、どうしてもこの精神状態でもう1本記事を書くのは厳しいと判断し、安里君にお願いした。まだその媒体のトンマナに慣れていない部分もあり、かなり苦戦しながら書いたらしいが、まぁそれは彼にとって力になるからいいだろう。

またもう一つ、とても些細なことだが人に頼れたエピソードがある。その日、美容室の予約を入れていた。乗るべき電車に遅れてしまったため急いで美容室に行ったらギリギリの時間。急ぎ足だったため、喉が乾いてしまった。いつもはカラーリング中に「お茶どうですか?」と勧められて飲むのだが、この日は今すぐ飲みたかった。

そこで、美容師さんに「お茶、もらってもいいですか?」と聞いてみた。美容師さんはすぐに出してくれた。また、しばらくすると足元が冷えてきた。普段なら「ひざ掛け使いますか?」と聞かれない限り使わないが「寒いのでひざ掛け貸してください」と言えた。

とても、とても楽だった。自分の希望を伝えることはこんなにも楽になれることだったのだ。

仕事でも、今まではスケジュール的に厳しい状態でも最初に提示された〆切を守っていた。しかし、編集さんは大抵、少し余裕をもって〆切をもうけている。ちょっとこれだとしんどいなと思ったら「今立て込んでいるので、●日まで〆切を延ばしていただくことは可能ですか?」と交渉するようになった。今のところ、それで〆切を延ばしてくれなかった編集さんはいないし、延ばしてもらった〆切よりも前に原稿を送ることができている。これも、自立のためのに自分を守るテクの一つだ。

ただ一点問題が。10年ほど前に一度やってしまっている摂食障害をぶり返してしまった。軽度な上、元々の体重が軽いのもあり4kgしか減っておらず、そこまで深刻ではないが、体力が落ちてしまったのと体重への強迫観念がある。でもそれも、ここ数日とても調子がよくなっている。薬を譲ってくれたY君も、男性では珍しく(男性では1%くらいしかいない)摂食障害経験者だ。今、ネット上でシンデレラ体重が話題だが、Y君は

「健康体重とは心と体の納得する体重」

という名言を今朝放ってくれて、また楽になった。

先日は安里君にテープ起こしの音源データを20時に送ると言っておきながらすっかり忘れてしまっていた。しかし、安里君は「セックスよりも大事なことなんてないので大丈夫です」と気にしていない様子だった。ありがてぇ。私は完璧じゃないんだぜ。

■完璧な自分を演じなくてもいい気楽さ

私は人に相談したり頼ることが怖かった。完璧な人だと思われたかった。だから、人に頼るという一歩を踏み出せたのは進歩だし、生きやすくなった。

先日、確定申告のために源泉徴収をデータ入力して計算した。売り上げの数字を客観的に見ると、30歳独身女、フリーランスでここまで頑張っていてすごいなと改めて思った。人に頼らずにこの数字ならば、人に頼ればもっといけるかもしれない。

30年間ずっと生きるのがつらかったけど、最近は生きるのがちょっと楽しい。


いいなって思った方はサポートお願いいたします。