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誰もいないクリスマスの街、深夜のバスターミナル

2年前のクリスマスは、イギリスにいた。
クリスマス休暇を利用して、当時留学していたオランダから、イギリスで留学している友人たちを訪ねる旅を計画していた。

クリスマス・イブの24日に、マンチェスターで留学する友人Rが住む寮に到着。留学生向けの大学寮は、私の友人の他に人気がなく、しんと静まり返っていた。
欧州では、クリスマスである25日は小売店はおろか、公共交通機関も全てがストップし、「家に籠もらざるをえない」一日となる。私と友人Rも、翌日に備えてスーパーへ買い出しに出かけた。
欧米のクリスマスは、日本で言うお盆や正月のようなもので、家族親戚が集結する一大イベントだ。現地の友人が言うには、毎年クリスマス前日には凄まじい量の買い出しをするらしい。

私たちもたんまりと食料を買い込んで寮に戻り、周囲を気にすることなく、部屋では大音量のクリスマスミュージックをかける。夕食はデンマーク風のミートボールを作り、既製品のマッシュポテトとケーキで豪華なディナーを囲んだ。
私もRも妙に気合いが入って、Youtubeを見ながら、ミートボールに添えるラズベリーソースまで手作りする。ハーブが効いたミートボールは、たしかにいつもと違う夕食で、手作りのクリスマスムードに満足していた。

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翌日はクリスマス当日。「中華料理店ならやってるかもよ」というRの謎の予想を頼りに、寮を出て歩いてみる。
外はそんなに寒くない。なんとなくイギリスは寒いかと思ってもこもこのダウンを着てきたが、薄手のアウターで十分だった。それでも、途中で雪がちらほら降ってきた。
クリスマスの街は眠っているかのように人がいない。たまに見かけるのはアジア系の留学生たちだった。私たちにとって、帰る国はあまりに遠い。クリスマスを重視しない国民性と相まって、留学先に留まる学生は多かった。

わずかな望みを懸けてたどり着いた中華料理店は、店内に明かりが点いていない。郷に入れば郷に従え、と言わんばかりにちゃんと閉店していた。「やっぱり開いてなかったか〜」と笑って、ドアに貼られたメニューの写真を眺めて帰ることにした。
クリスマスの静かな街を、Rとてくてく歩く。バスを使いたくても、今日はクリスマス。歩く他に手段はない。往復で1時間以上歩いて、腹ペコで寮に戻った。

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時間を持て余した私たちは、Amazon Primeに手を出す。部屋を暗くして見た「英国王のスピーチ」は、時間を忘れて没頭することができた。(VPNに感謝)
そのままゆっくり寝たい…ところだったが、欧州のクリスマスを舐めていた私は大幅に旅程をミスり、なぜか25日の夜行バスに乗ってロンドンへ移動するというサンタもびっくりの忙しないスケジュールとなっていた。

繰り返しになるがバスは走っていない。幸いにもシェアリングエコノミーが台頭する時代の恩恵を受けて、Uberでバスターミナルまでのタクシーをつかまえることができた。
こういうシチュエーションでも、ある程度安心して乗れるUberのシステムは素晴らしい。中東系のタクシー運転手に乗せてもらって、夜中のバスターミナルに到着した。

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ちゃんと建物のあるバスターミナルで、他にもバスを待つ乗客がちらほら。外よりはましな気温とひとまずの安全を確保できたことにほっとする。
午前2時頃にやってきた高速バスに乗り込み、途中で1時間の乗り換えを挟み、フラフラになりながら早朝のロンドンに到着した。その後もクリスマス特有のイレギュラーな出来事に見舞われながらも、なんとかオランダまで帰ることができた。


留学先ではあっても、オランダは私にとっての「帰る場所」になっていた。空港に着いたとき、家に戻ったときの「やっと帰れた〜」という安堵は、日本から遠く離れたオランダに場所を変えてもちゃんとそこに存在していた。

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