木綿子（ゆうこ）は、オンラインの会議が苦手だった。

スカイプやzoomを使って、画面越しに行われるオンライン会議。場所を問わず話ができるのはいいけれど、どうにも自分が現実世界から離れるような気がしてしまう。

一人宇宙にいるような、周りと切り離された場所で、他の星の人と交信しているような気持ちになるのだ。

「今日もオンライン会議、2時間もある...。」気持ちが重くなるのをこらえながら、いつものメンバーにメッセージをした。

”こちら、URLです...。”

URLを送ると、トークルームには続々とメンバーが入ってくる。小さな画面に顔だけが見えている彼らを見ると、宇宙からの中継に思えてくるのが不思議だ。

2時間経ち、どん詰まりの空気が流れる会議。宇宙船が軌道から外れてビックバンに吸い込まれていくような、何かを手繰り寄せようとしても何も掴めない、ただただ静かな時間が流れていた。

シーーーーーッン。

「宇宙空間か、ここは。」そっとマイクをミュートにして、木綿子は呟いた。

オンラインの会議で議論をしていると、なぜだか相手の言っていることが理解できなくなることがある。David Bowie の Space Oddityではないが、「Ground control to major Tom 」と言いたくなる瞬間が木綿子にはあり、いつも心の中でそっと呟いては、ちょっと笑ってしまう。

「早く終わらないかな...。」今日の会議もそうなのだが、オンライン会議の流れはこれからもっと主流になっていくのだろうと思って、嘆かわしい気持ちになった。

”まだまだずっと先のことなんだろう、このオンライン会議という名の宇宙船から降りて地上に戻れるのは。戻った時、オンライン会議で見せている私と、本当の私は違うんだって、きっとわかるんだ。”

そんな、Elton Johnに捧ぐ替え歌を作ってみたりした今日だった。

”And I think it's gonna be a long long time
Till touch down brings me round again to find
I'm not the man they think I am at home
Oh no no no I'm a rocket man”
ー Elton John