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【Tier】プロスポーツにおける格

千賀滉大(ソフトバンク)や山本由伸(オリックス)のように、160km/hに迫るストレートと変幻自在の『消えるような魔球』を操り、相手打者に手も足も出させずに抑え込むことを、近年Twitter界隈の野球ファンの中では《支配層ピッチング》と呼ぶことが増えました。

これは投手個人のお話。

この支配層という言葉は、投手個人だけではなく、プロスポーツリーグにおけるチーム単位でも(公には公表されていないものの)暗黙知として《支配層》と《搾取される側》の2つの概念が存在しており、投手個人のように団体にも置き換えることができると私は考えています。
今回はそのお話です。

1.Tier

ラグビーワールドカップなどで『Tier2の日本がTier1の南アフリカに勝利!ラグビー史に残る世紀の大金星!!』(2015年イギリス大会)などといった感じで、ちょくちょく聞くようになってきたTierという言葉。

では一体Tierとはなんでしょうか。

TOEIC990点の私ですが、一応念の為仕方なく調べてみると、このような訳が出てきました。

スポーツ界でいうTierもこの《階層》を指しており、先程のラグビーW杯の例ではTier1の強豪国、Tier2の中堅層、Tier3の発展途上国から構成するとされています。
2015年のラグビーW杯では、Tier1でも上位に位置する南アフリカを、Tier2と3の瀬戸際だった日本が後半ロスタイムで逆転サヨナラ勝ちを収めたことから、世界中を驚かせました。

このように、国(=組織)同士のグループ分けでも存在する概念のTier。
国や地域同士でのカップ戦の場合、それは試合での勝利期待値・優勝予想として主に用いられますが、プロスポーツの場合では(もちろんそれもあるが)Tierは補強の精度にも大きな影響を及ぼします。

では、次にNPBにおけるTier(明確な基準はないので凡その目安だが、自球団のFA補強での動きや近年の強さを見れば、勘の良い方は大体気づくかもしれません)の分配。
以下はぼくがイメージから勝手に分配したものですが、あくまでも凡そや目安です。また、この基準は時期や強さなどによって降りたり登ったりを繰り返しています。あまりガチギレしないでください🥲

Tier1(強豪) 巨人・ソフトバンク
Tier2(中堅) 阪神・楽天
Tier3(発展) その他(オリックスなど)

※今回NPB内Tierで争点になるのは、Tier1の巨人とTier3のオリックスなので、主にこの2球団に注目してお読みいただけると幸いです。

補強の精度にも大きな影響を及ぼすプロスポーツにおけるTier分け。
当然Tier1の強豪チームになるほど補強の精度は高く、Tier3の発展途上のチームはまだまだ補強においては脆弱な印象を拭えないように見受けられます。

NPBにおける《支配層》である巨人やソフトバンクは、基本的に国内移籍(FA補強・外国籍選手etc)において、自球団よりもTierが低くなればなるほど補強が容易に進みやすいと考えています。
逆に、Tierが低い球団は国内移籍での補強が進みにくいと取れるでしょう。

基本的にTierが高い球団のファンには、『FA移籍は成功するもの』であり、現に巨人には丸佳浩(広島より)や小笠原道大(日本ハムより)ら多くの選手の獲得に成功。
逆に糸井嘉男(オリックス→阪神)や鈴木大地(ロッテ→楽天)といった狙っていたものの他球団に攫われた場合は、《FA補強に失敗!!》とスポーツ紙では扱われることが多いです。
これは裏を返せば『補強は成功するものとして進んでいる』という決定的な裏付けになります。

対して、Tierが低いオリックスなどの幾らかの球団は、国内移籍の補強に関しては《搾取される側》のチームであり、大物選手がこれらの球団に移籍することは殆どありません。
近年の例外としては、Tier1の巨人とTier3のオリックスで獲得競争をした結果、オリックスに移籍した増井浩俊(36)投手が挙げられますが、一部には、増井が最重要項目に挙げていた起用法の条件を、巨人側が呑めなかったことがオリックス移籍の決定的要因とも言われており、このようなことは基本的に起きえません。

Tier3のオリックスからTier2の阪神に移籍することは多々あれど(西勇輝・糸井嘉男ら)、逆は出戻りの平野恵一のみなのが、明確なTierの概念の存在を物語っています。

基本的に、Tierが低い球団から見た場合、《補強は出来ないもの》であり、本当は獲得したくても動き出せなかったり水面下で断られている例が殆どとされています。

2020年のオフシーズンの場合でも、オリックスは補強ポイントであるCF、RFを埋められる存在として、DeNAからFA宣言の梶谷隆幸(32)選手の獲得に動いた方が理論的には合理的なのですが、実際は『優勝したい』との条件の彼に対して、Tier3のオリックスの勝算が無さすぎるが故に、水面下での調査に留まり獲得競争から事前に手を引いています。

ちなみに、獲得の勝算が無いにも関わらず勝負に出た結果が、浅村栄斗(29、西武→楽天)であり、彼がオリックスとの交渉を拒否したことで『オ断リックスwwwww』となったのは言うまでもないでしょう。

そこに『え?補強すりゃいいじゃん』のTier1の支配層側のファンの意見と、『補強できないから違うアプローチから何とか打開しようとしてるんでしょ?』の搾取される側のファンの意見で対立が起きるのは、ある意味必然なのかもしれません。

無論、オリックスなど搾取される側の球団も、現状の立場から脱却するために、チームに付加価値を付ける必要があるのは言うまでもありません。ただ、これらの付加価値は付け焼き刃で簡単に着くほど甘いものではないことも確かです(仮に簡単なら支配層などの概念自体存在しない)。

巨人やソフトバンクといった強豪チームが長年に渡ってチームに築いてきたカルチャーは、他球団には容易に模倣できるものでは無く、だからこそ《支配層》としての立場で君臨しているわけであり、これがやれ『強奪球団』だのと文句を言われる筋合いはありません。それはタダの負け犬の遠吠えでしかない。

別にどちらのファンの意見が正解・間違いなのではなく、単なる認知と立場(支配層・搾取側)の違いなので対立が起きるのはそう。
どこのプロスポーツでも起きる話です。

1つ言えるとしたら、一々他所の球団に首を突っ込んでネガキャンすれば、そりゃあ総スカン喰らうだろうってことくらいです。この辺はTierではなく個々の人間性のお話。


2.Jリーグ・Bリーグでのお話

このようなTierの概念は、NPBだけではなく国内の他のプロスポーツリーグにおいても見受けられます。

例えば、創設から間もなく30年を迎える男子プロサッカーのJリーグでは、《支配層》側は旧社会人サッカー時代から君臨してたオリジナル10と呼ばれるクラブに偏り。
鹿島アントラーズ(住友金属鹿島)・名古屋グランパス(トヨタ自動車)・ガンバ大阪(パナソニック)といった常勝クラブは正にそれです。

もちろん、かつては猛威を奮ったものの近年は2部リーグに留まる東京ヴェルディ(讀賣系列)、ジェフユナイテッド千葉(古河工業)やクラブ自体が消滅した横浜フリューゲルス(横浜Fマリノスに吸収合併、かつてのANA)など幾らかの例外はありますが。

反対に、(チーム名を名指しするのもよくないが)1部リーグに所属するものの、地方都市に籍を置いていて経済基盤が大都市圏のクラブと比較して強力ではない(そもそもの支援母数が限られる上規模も劣る)ベガルタ仙台・サガン鳥栖・大分トリニータetcは、いつも選手を搾取される側に回っている。

地方クラブから大都市圏のクラブに移籍する主力選手は枚挙に遑がない一方、逆の移動はほぼ見られない現状が、Tierの存在を物語っているのではないでしょうか。

男子プロバスケットボールのBリーグもまたしかり。
《支配層側》は、東芝神奈川(現川崎ブレイブサンダース)、トヨタ自動車(現アルバルク東京)、アイシン三河(現シーホース三河)に筆頭されるような、旧JBLの企業由来のチームが締める一方、地方都市の基盤が弱い市民球団は搾取される側に回ります。
京都ハンナリーズ、滋賀レイクスターズ、島根スサノオマジックなど。

例えば、支配層の千葉ジェッツふなばしでは、搾取される側である京都の主力SF・晴山ケビンを2年契約で獲得し、1年使ったもののチームにフィットしないので搾取される側の滋賀にレンタル移籍で放出。代わりに滋賀の生え抜き主力選手で日本代表のSF・佐藤卓磨を完全移籍で獲得する…という例も直近ではありました。

もちろん、千葉はルールの範囲内でこれらの補強を行っているのですが、やはり《支配層側》と《搾取される側》のふたてに別れていることは否定できないと感じます。


3.まとめ

だからといって、《搾取される側》のチームも黙ってれば良いわけは無いので、補強できない部分をあの手この手で補うしかない。
悲しいけど弱者の戦法は現状では殆ど存在しないと言わざるを得ない。なんとか《支配層側》に回るしかないと言えるでしょう。

もちろんチームへの付加価値を付けることは絶対条件なのですが、これはすぐ反映されるものでも無いのでかなり長期視野で見ざるを得ないように思います。

Tierが上のチームから見た時、Tierが下のチームから戦力を引き抜けることは当然のことと感じてしまいがちですが、それを当然のように行えるチームはごく一部のチームに限られています。
現状《搾取される側》に甘んじているチームが、どのようなプロセスを経て今の階層を脱出していくのか。これはある意味《搾取される側》にしか味わえない醍醐味でもあるので、各球団楽しみにしています🥰

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