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泣いたって始まらないのに13

 はるが料理を運んで来た。
「入りますね」
「はーい待ってました!」
爽子は襖を開けて、料理を受け取りながら、
「唐揚げ! おでん! 肉じゃが! ピーマンとナスの味噌炒め! ブロッコリーのお浸し! 生姜のかき揚げ! 凄い凄い! はるさん判ってらっしゃる~〆は生姜としめじの炊き込みご飯お願いしまーす。」
「了解。飲み物はどうする? 同じもので良かったら、これ差し入れ」
差し出されたお盆には、焼酎のボトル、ポット、梅干しが乗っていた。
ふたりは拍手と歓声で、笑いながら出て行くはるを見送った。
「さあ食べよ食べよ! いただきま~す。あぁ大根味しみてるよ~ほらお皿貸して取って差し上げましょ。お嬢」
 爽子はお皿を受け取ると、由美の好きなじゃがいも、こんにゃく、大根、玉子を入れて恭しくお皿を由美の前に置いた。
爽子は美味い美味いと連呼しながら、本当に美味しそうに食べている。
 由美は爽子の、そのすっきりとした男前と、相手に寄り添う暖かさが大好きだった。
「爽子、そう言えば旬君元気? 最近、話聞かないからさ」
爽子は唐揚げを頬張りながら、うんうんと頷いている。
「元気だよ~旬も出張が多いからね。あっ、でも今回の九州出張は、丁度お互い福岡にいたから……逢ってしまったへへへ」
少し照れながら話す爽子に、由美は思わず笑った。
「何よ~何が可笑しいんだよ〜」
「だってさぁ、照れちゃって可愛いだもん」
プーとふくれた爽子を見てまた由美は笑った。
 由美は秋之の事があってから、爽子に聞いてみたい事があったが、ただいくら親友であっても、やはりルールはある。
 求めあう男と女の行き着く感情と感覚。
極めて個人的な、いや愛し合っているふたりだけの、ふたりだからこそ持てる濃密な時間。
それを覗くような事になってしまう。
そんなつもりは毛頭ないが、結果的そうなる。
 非常識だと一蹴されるかもしれないが、由美はただ知りたかった。
そこに辿り着き、なお互いを求め続けられているふたりと、自分は何が違い、何を感じることができなかったのか。
「ねぇ、爽子。わたし、どうしても聞いてみたい事があるんだよ~でもねぇ赤面間違いなしになるかも。あぁなるな~いやいや怒られて…」
爽子はお箸を置くと、
「なんだよ〜前置きなが! 何でも聞いて!!」
 由美は遠慮がちに話始めた。
「爽子と旬君のことなんだけどね」
爽子はちょっと首を傾げたが、由美の次の言葉を静かに待った。

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