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約束 

お題……空が落ちてくる。

黒髪が、優しい風に吹かれている。
君はそれがちょっと鬱陶しいんだね? きっと、君は眉をひそめているに違いない。 
そして黒縁の眼鏡を押し上げるんだよ。
少しだけ重そうに見えるのは、
君が華奢なせいなんだって思っているよ。
フレーム変えないのは、あれだろう? 俺が好きだって言ったからだよな?
でもな、どんな君でも好きだから安心しろ。
 ところで何を真剣読んでいる? 
そっとそっと後ろから近く。
あと一息だったのに! 君は振り返り、
「ずっと知ってたよ……いつ来てくれるかなぁって……」
俺はその憎らし口を唇で塞いでやった。
 君は少し驚き、少し笑顔で
「恥ずかしいよ……」
唇を擦りながら俯く。

隣に座る。
「何を読んでた?」
「教えない……」
「知ってるから、別にいい」
「なら、なんできくの?」
「……煩い!」
「怒ったの?」
「バ~カそんなことで怒りゃしないさ」
「よかった……」
「こうやって、どうでも良いことを、沢山話していたい」

真剣な眼差しで見つめてくれる君は、小首を傾げて
「う…ん。そうだよね、時間がないものね。僕たちには」

あっ……まただよ……

この話になると決まって、決まって空が泣くんだ。

君は立ちあがると手を差し出す。
「行こう! まだ涙に濡れるのは嫌だからさ」
俺は君を抱きしめ傘をさす。
「そうだ。お前はまだここにいる」

優しい風が吹いてる。

誰もいないベンチに……

どんなに音を立てても、振り向く
君はいない。

ドッカとそこに腰を下ろし、開く
君の書いた本!

「逢いたくなったら、開いて欲しい」

なんだよこれ! 逢いたくなったら?

ふざけるなよ……1秒もそう思わないときは無い! 逢いたい!

「僕らは愛し合っていた。それが今は、嬉しいような、悲しいような。君を置いて行きたくない。
連れて行きたい! 我が儘なのは知ってるさ。でもねそれは、僕が寂しいのはもちろんなんだけど、君がとても心配なんだよ。ちゃんと生きてくれるかな? 泣いてばかりいたらどうしようって……考えるだけて苦しくなるんだ。ほら、もう泣いてる」

バカ!泣いていないよ……泣いて……苦しいよ……
「ねぇ……ちゃんときいてくれる? 愛してるよ! 心から愛してる。それは変わらないんだよ。信じて! それでね、僕神様と契約為たんだ。寿命を少しだけ縮めても良いから、君の記憶から僕を消してい欲しいって。心臓を差し出すことも約束為たんだ。ごめんね。でも、これで心おきなく空に登って行けるよ。じゃぁ……またね! 最後に僕からの贈り物は、
僕史上最高のキスを送ります」

あ~あ~酷いじゃないか! 俺の気持を考えたのか? 
おい! おい! 帰ってきて……

冷たい……冷たい……
空からの雫が俺のそこここに染みこんでいく。

どうでも良い。
空から落ちてくる雫なんて
どうでも良い。

あれから数年の時は流れたが
俺は……君を愛してるよ。
何も変わらないよ。
また空からの雫が落ちてくる。
なんなら、空ごと降ってくれば良い。
そして俺を押し潰せよ!

「大丈夫ですか?」
俺はずぶ濡れで倒れていたらしい。
「大丈夫ですか? さあ風邪引きますから」
 差し出された手の温もりが懐かしいのは何故? 傘に引き入れられた俺は思わず
「有難うございます。初めまして、僕は……」
「あっ……いや、初めまして……です」
僕は知っているよ。
いや……僕の心臓が知っているんだ。
君と愛し合っていた事を。

さあ、ここからだね。
そう……二人の物語は、これから
始まるんだよね。

まだまだ時間はある。

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