見出し画像

泣いたって始まらないのに16

「由美はさ、あいつの何が今も心に突き刺さっている?」
「何がって……全部」
「全部?別れたこと自体も?」

「今は……その時言われた言葉だよ」
「言葉ねぇ。その言葉ってどんな意味があったのかな?あいつの勝手な言い分としか思いえないんだよね。私たち勉強したって言ったでしょ?あれ真面目な話しなんだよ。ふたりで本、雑誌を読みまくり、調べまくり〜映画だって見たよ〜あらゆる方面から研究したんだ」
由美は思わず、
「なぜ? そこまで? 恥ずかしくなかった?」
と聞いてから、これってなに目線? 馬鹿な質問をしたと後悔をしたが、爽子は気にする風もなく答えてくれる。
「そりゃ、最初は口にするのも恥ずかしい言葉や、行為もありました。でも、それよりも、自分が感じる事を判らなかったから。
知りたかったよ。感じるって
どんな世界なのかね。だいたい……旬だけ感じているなんて狡いでしょ! そう思わない? でも、あの頃、わたしも相手が違っていたら、少なからず由美と同じ様に考えてしまったかもね。
自分に自信が持てず、殻に閉じこもっていたかも知れない。
とにかく、あいつのご託ってさ、耳タコかもしれないけど、いい年した男が、自分の娘みたいな歳の女の子に言うことかね。
本当人間性疑うよ。自己中もいいとこだ!」
憤慨する爽子を見ながら、由美は爽子から聞くふたりの話しと、自分の恋愛を考えていた。
 初体験の人には言われたことのない言葉を秋之に言われた時、確かに自分もそう想った。
「愛している」
そう、これが愛する事なんだと。
愛しているって言われたから、
わたしもそうだって思った?
言われなかったから? 思わなかった? どちらにも焦がれていた。確かに焦がれていた。
でも、本当は相手を見ずに、自分だけしか見えてなかったのかもしれない。
自分が大好きでいるんだから、
相手もそう思っているに違いない。
勝手な自己完結だったのか?
本音を語らずに形だけ? その場の雰囲気に流されて、相手の気持ちに寄り添っているつもりになっていたのかも知れない。
全ては自分、自分だった。
爽子と旬が愛を育んでいると言うのならば、わたしは恋に落ちただけなのかもしれない。
 恋に恋している自分しか見えてなかった? 爽子たちは、パズルのピースを、苦労しながら、でも楽しみながらはめている。
そうして、今よりもっと素敵なカップルになっていくのだろう。
ふたりが心から寄り添い、唯一無二の存在になれたのは、努力なしには得られなかったとも知った。 
 由美は、何一つ相手の事を考えられなかった自分が悔しかった。
 この愛し合うと言う大切な感情には、惜しみなき努力が必要だと言う事を理解出来てなかった。
呆れるくらい幼稚過ぎたのだ。
 由美は突然心が軽くなり、思わず爽子の手を握り笑いだした。
「どうした! 由美! わたしの話しに当たった?」
「違う違う! 今やっと消えた。
錯覚と言う棘。こんなにあっさり消えるのが信じられない。わたしがしてきた、この二つの恋愛は、私に取って必要なものだったの。確かに辛かった。苦しかった。でも、爽子たちの話しを聞いているうちにそう思えたよ。すぐに全て大丈夫とは言えないけどね」
爽子は思いっきり頷いて、
「良かった! 良かった! またいい女になるね~もっと輝くぞ!わたしたちは!」
「うん!踏み出すよ。少し怖いけど」
「さて、それじゃぁ河田君と一歩踏み出してみるのも良いかもね」

「えっ! 爽子何言ってるの!
河田君は年下だし、何も知らないのよ。爽子だって知らないはず」
慌てる由美を横目で見ながら、爽子は涼しい顔をしている
「知ったらどうなの?ってさ。 どうやって知るのよ? もう飾る必要ないでしょ。昨日で由美の事全て受け止めているよ。これからも彼は何回でも告白するって」
「えっ? 彼って?? 爽子!  河田君知ってるの?」
「知ってるって、当たり前でしょ! バイトなんだし。今回仕事のヘルプではいい仕事してくれたよ。いい青年よ。懐深いしね、由美だけだよ、今までまったく周りが見えてなかったから仕方ないけどさ。それに彼も、判りにくいアプローチだったしね」
「そうなんだ、知らなかった……」
由美はボソッと呟いた。
爽子は、はるを呼んでくると言って部屋をでた。
 はるに向かって大きな丸を作って見せると、爽子は電話をかけた。
「あっ河田君? 由美大丈夫だから。本当だよ。うん、うん、だから迎えに来て。えっ?! いる?何処に? あぁわかった。待ってるからね……いや、やっぱりひとりで駅に向かわせるから。お店出たらラインする。じゃぁね」
爽子が電話を切ると、はるは驚いて
「爽ちゃん! 由美ちゃん知っているの? 大丈夫かしら?」
爽子は笑いながら
「知らないの。でも大丈夫! 河田君なら。それに一晩置いたら後戻りなんて嫌だからね。こう言うのは寝かせるもんじゃないでしょ? はるさんが一番知っているはず……」
それを聞いて、はるは優しく頷いた。
 爽子に続いてはるも部屋に入っると、
「由美ちゃん!!良かったね。頑張ったね。嬉しい……」
涙ぐむ由美を、はるはしっかり抱きしめた。
「すみません〜」
「お客様だわ、はーい今行きます」
にっこリ笑うとはる急いで部屋を出て行った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?