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泣いたって始まらないのに12

 爽子はカウンター越しに注文すると、少し声のトーンを落とし、
「昨日由美何かありましたか?
今はだいぶん目の腫れ引いてるんだけど、朝は酷かったんですよ。
今から話してくれるとは言ってるけど、何か知っていたら教えてもらえると有り難いです」
はるは、昨夜の事をかい摘んで話した。
「大和の奴、駄目だなぁ、あいつは……でっ、かさぶたが剥がれたんだ」
一瞬爽の言葉が気にはな為ったが、ふたりで話すなら心配ないと思い、ウーロンハイとお通しを乗せたお盆を渡し、爽子の肩をポンと叩いた。
爽子は頷いて、部屋の方へと声をかけた。
「由美! 開けて!」
由美は急いで立ち上がり襖を開けた。
「有難う!」
グラスとお通しを下ろし、ふたりは座り直した。
「さて! お疲れ!」
「う~ん美味しね! 爽子お帰り」
由美は嬉しそうに笑った。
「はい!ただいま〜」
爽子は由美の顔を覗き込んで
「聞くよ。どうした?」
由美は神妙な顔つきで、大和に突然告白された事、その気はないから付き合えないと説明しても納得してもらえず、結局秋之との事を話さざるを得なくなった事。
そして、とめどなく蘇ってくる記憶に、今も支配されている自分が情けなくて、苦しくてどうする事も出来ずに、一晩中泣いていたと涙声で話す由美だった。
 爽は、震えている由美の背中を優しくさすりながら、
「そっか、そっか、頑張ったね。良く頑張ったよ。あんな奴のことは置いといてさ。河田君はどうだった?」
「どうって? 二十一才にしては大人ぽっいかな。話も茶化さずに聞いていてくれたしね。ただ、わたしの話しの内容が、本当に理解できたかは判らない。関係ない人には、結構痛いだけの話だからね」
由美はウーロンハイの梅干しを突っきながら、大和の表情を思い出していた。

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