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立ち飲みが安いのは理由があるし、安いだけで立ち飲みに行くわけでもない

立ち飲みに馴染みがない上に、カウンターが常連で埋まっていたら詰めてもらうのも言いにくい、知らないうちに不文律を破ってしまうのも恐い。
主に「わからない」から生まれる「恐さ」から、裏なんばのあたりに飲みに行くのは気後れしていた。
それでも尚、行ってみたいところが何軒かあって、よく難波で飲んでいるというひとに案内を頼む機会にも恵まれた。
中で合流するのがOKなところもあるけど、ここはダメだから!とか、鉄板焼きで焼きそばを作るには鉄板を一度きれいにしないと作れないから、自分の好きなタイミングで頼めると思うなよ、誰かが頼んだ頃合いを見て〆のタイミングで頼むんだぞとか、いろいろ教えてもらわないと分からないルールがやっぱりあって、とても助かった。
1軒でどのくらい食べて飲むのかというペースも参考になった。気が済むまで頼もうとしてしまうのは、あまりスマートではない。
(ただ「いつでも来られる」と思える余裕があってこそ「今日は1品と1杯にしておこう」ができるようになる。遠くに住んでいたらあれもこれも頼みたくなってしまうと思う)

立ち飲みが安いのは、もちろん面積が狭くても営業できる、立っていると疲れるから無駄に長居もしにくく回転率も上がる等あるだろうけれど、それらを踏まえても「正気で立って飲めるひと割引」だと解釈している。
ぐにゃぐにゃになるまで飲んで足腰立たなくなったり、隣の客と距離が近いからといって酒にまかせて悪がらみするのは、程度が悪ければ追い出される。
かと言って、じっと黙って飲んでいれば「いい客」なわけでもない。
店主やお客さんと適度に話したり、混んでいるかどうかを気にかけて自分がそこそこ満足していたら率先して出る、店主の手が届かなければサーブの中継をする、みんな当たり前にしている。どうやって店とひとと関わっていくか、その場をいかに良いものにするか、そのために自分は何ができるかと考える、前向きな意欲があるかどうかじゃないだろうか。

店主同士で「そっちに来てたお客さん、今日うちに来てくれたわ」という情報交換もよくされている。お互いのありがとう、という共有ではあるけれど、これは当然、なにか失態があればマッハで伝わるということでもある。
店主同士、客同士が有機的に結びついている、つながりが見えてくると面白くなってくる。店の親密度は立地が近いだけではないし、この店が好きなひとはなぜかあっちの店でも見る、というのがわかってくる。
少しずつメタ情報が増えてくると「いまの時間、人数、天気、飲んでいる量、お腹のすき具合からして、次はここ。もし混んでたらこっち」と手札からカードを切るように、決めるのが楽しくなってくる。その時にならないとわからない読めなさ、界隈丸ごと込みのライブ感こそが楽しいのではないか。立ち飲みにはリズムがいる。
それを理解するには、やはり知ってるひとに手を引いてもらってはしごするのが近道だと思う。

概ね22時に開店する「立呑み 笑和」は、なんばで飲んでいるひとが最後の方に吹きだまる。
他の店に行った後でも、ふらっと寄ってしまいたくなるし、そんな人たちで狭い店内はいつもぎゅうぎゅうで、店主は裏なんばの聖母みたいだ。
いつまでも明るいカウンターは、あらゆる懺悔も相談も受け入れ流され忘れられていきそうな趣がある。いろんなお店と繋がっていて、店を閉めた後の店主も含めいろんなひとが来て、自治がはっきりしていて(絡むようなひとには厳しい)、やさしくて、料理もものすごく美味しい。というか料理がうまい。料理の技術と丁寧さに毎回酔いも覚めるほどおどろく。

夏野菜の揚げ浸しも感動した。

茄子に鹿の子に入った包丁の深さや幅が絶妙で、箸で持ち上げたときにバラバラにならず、あくまで茄子をふっくらさせるのと味が染みやすい深さになっている。オクラは断面が可愛いけれど、垂直に切ってしまうと盛り付けの際には見えないから斜めに切ってある。プチトマトは皮が剥いてあって2色入れてある…!!この小さな一皿に、愛が詰まっている。

メロンとチェリーのチューハイは、さくらんぼがフレッシュな上にメロンがパフェみたいな飾り切りで、おそらく飾り切りだけだとお酒に味が出ないから一切れ沈ませてある。

定番のオムライスもカツサンドも、それ目当てにお客さんが来る洋食屋さんで出てくるもののように美味しく美しい。カツは頼んでから揚げてくれる。


豆乳坦々冷麺を頼んだときは、豆乳をメインスープに使うと濃厚になるはずなのにサラッとしていて、ふしぎに思っていたら「ウチは遅くに来るお客さんが多いから、重いと食べてて疲れるやん?だから豆乳を牛乳で割ってんねん」と聞いて、こんなに食べるひとへの気遣いの細やかなことある??と思った。

笑和は「けんけんさんとこ、行こー」と言うひとが多い。
他にも「ナカさんとこ」「りゅーじさんとこ」「マルちゃんとこ」「めーちゃんとこ」等、名前で呼ばれる店は少なくない。
みんな店主に会いに行って、ついでに美味しいもの飲めて食べたら楽しいな、くらいの気持ちも大いにあるんじゃないだろうか。
とはいえ、なんばで飲み始めて数年しか経っていないから、昔から飲んでいるひとの目には、また全然ちがう景色が映っているはずだ。

立呑み 笑和(Google Map)
〒542-0075 大阪府大阪市中央区難波千日前2−16

「子犬のように愛くるしい目をした、専門店ばりに料理がうまくて、落ち着くトーンの声でさらっと下ネタを言ってくる裏なんばの聖母」と言っても、ちょっとうまく飲み込めないような気がする。
行ったら全部わかる。

※わりと営業日時が不規則なので最新の情報は店主のInstagram確認必須です

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