見出し画像

#2404235

断捨離の最中に懐かしい文庫本がひょっこり顔を出し、Fさんは、作業の手を止めた。緑色の付箋がニョキニョキ顔を出し、古びた野菜のように変色している。

ページをめくる。これでもかというくらい赤線が引かれ、書込みまでしてある。自分を揺さぶった大切な言葉たちのはずなのに、今となっては響いてこない。

「何にそんなに心を動かされていたのかなぁ」。今とは比べ物にならないほどピュアで貪欲だった頃の自分がケナゲでもあり、羨ましくもある。

気が付けば、部屋は、すっかり暮色に包まれていた。小さ過ぎる文字に疲れた目を押さえて、思う。受容度や解像度の劣化は、視力や聴力だけの問題じゃない。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。何らか反響をいただければ、次の記事への糧になります。