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隠岐へ向かう

隠岐へ向かうフェリーに乗り込んだ乗客たちは、さっさと床に寝そべって眠ってしまい、旅人である私たちは、「なんてグウタラな人たちか」と憤慨しました。

でも、強風と高波にあおられてやがてフェリーは激しく揺れ始め、私たちも彼等を見倣って寝そべりました。寝そべりながら、ある歌のことを思っていました。

それは、天皇の怒りに触れて隠岐へ流刑される男が京の都の人人に送った歌です。遠く離れた孤島へ渡っていく心細さと孤独を、彼は、釣り舟に託しました。

荒れ狂う海を前に、その小さな釣り舟は、あまりに非力です。「あれは、きっと遺言に似た歌だったんだ」と勝手に想像しながら、荒波に揺られています。

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