薄い扉
薄い扉で閉ざされた、あの部屋の中でだけ、私たちは、恋人同士のようにじゃれ合えた。その時間、君が示してくれた行為(好意)には、多分、嘘はなかった。
普通でいられない私にとっては、それで十分な関係であり、十分と思わなければいけない関係だった。あの部屋の中で私は、普通でない自分のままでいられた。
でも時時、私は、憧れた。普通でいられない私だけど、君と手をつないで歩く、例えばそんな普通の恋人同士、のようなものに。
あの深夜、あの交差点、衝動に身を委ねたくなる私がいた。隣を歩く君がいた。他には誰の姿もなかった。あれは、季節の変わり目だった。
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