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高野山(1)

高野山へと登るケーブルカーの起点は、極楽橋という駅です。「随分と有り難い名前の駅だね」とSがいいます。

「でもさ、真言密教の真髄は即身成仏なんでしょ。この身このままで仏になるっていうんなら、極楽ってのは教理にかなわなくない」?私が小理屈をこねます。

「そこが浄土教の一筋縄じゃないとこですわ」。訳知り顔のSが先にケーブルカーに乗り込みます。発車間際、前の席の婦人がいいました。「あ、チョウ」。

閉まりかけた扉から、確かに今、黄色い物体が舞い込んできました。死者の化身ともいわれる飛来物は、雰囲気としてその空間に似つかわしく見えました。



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