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火乃絵のロクジュウゴ航海日誌〈scrap log〉 第二百卅二日 8/18

川を渡っているさいちゅうだ、

こっちの岸、あっちの岸、もう水には這入っている。

渡りきるのに必死で考えたり迷ったりはしていない、

抱えていける荷物はかぎられている。失うものはない、

ひのえはいつもここにいる。——

            ⁑

まっくらななぎさの森につくと新島汐里さんから電話がきた。

ラップや詩や小説の話を小一時間した。

第二百廿五日でふれた宝鐘マリンさんとYunomiさんの楽曲「Unison」を勧めたら、ふだん聴かなそうなジャンルにかかわらず、気に入ってくれた。

新島さんからはまだ世に出ていない「sugata」という新曲を聴かせてもらった、ロシアのトラックメイカーАрсен Халиловさんとの共作だ、u から e への脚韻のうつろい、

フリースタイル・バトルが世に拡まってから、多音踏みや複雑な韻やフロウがもてはやされがちであるが、日本語の母音のもつ一音、そこにはフロウもメロディーも詰まっている、

〝韻が溶ける〟、新島さんの楽曲をきいているとそんなコトバが漂うてくる、——

声がきこえてくる文章 —— 林芙美子さんのはなしをしているとき。「肉声と文章のもつ声が等しい」。この日誌もときどき声に出して読んだのを録音している、書くときもいつも心の中で音に出しながら手を動かす、レコードに溝を彫るように未ざらし紙のノートにひのえの声を刻んでゆく、

     ずっとミュージシャンになりたかった。

文月十一日

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