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火乃絵のロクジュウゴ航海日誌〈scrap log〉 第二百廿八日 8/14

ここは目黒駅西口のサンマルク・カフェの地下、すべてのはじまりの場所、あの日かいだんをのぼり店の外に出ると真冬にはめづらしく大風が吹いていた、自転車をとりに行って、その足で隣町はゑびすにいる辻に会いにいった、

Austin Peraltaの『Endless Planets』をリピートしながらこうして、去年の七月は朝から晩までここに籠りっきりで『(ANIMA)TION』の原稿を千五百枚書いた。八月三日の太陽にカラダを灼き尽くされるまで、——

秋のおわりになってふたたび動けるようになってからも、昼の散歩のあとにここに寄って閉店まで色々と書いていた、火乃絵がひのえになったのもそのときぐらいのこととおもう、

おもえば去年の12月30日、ひのえは書いているものと地続きで、まるで白紙のなかに這入り込むようにロクジュウゴ文化祭実行委員会を始動させてしまった、地上に出るまえ原田に「〝ロクジュウゴ文化祭実行委員会〟——発足に向けて I」という部外秘の原稿をみせ、電話で返事(ウイ)をもらおうとした、しかし「おまえのいつまの躁鬱なんだから、ちょっとアタマ冷せ。みんなにも言わない方がいい」と諭されてしまった、けれど火乃絵の覚醒はまるで睡りのように冴えていた、

その場には原田もいたが、いつもながらに傍観をキメ込んでいた、ふだんもよく一緒にいた辻がそのあと「やるか、」というとはおもいもしなかったのだろう、次の日の夜明け(元旦)でんわで、五年後に世界規模の文化祭をやる、といったときあいたくちが塞がらなくなっていた。——

さていまこうしてここに戻ってみれば、8ヶ月
まえとなんらその決意は変わっていない、

ただひのえらすこしロクジュウゴとかブンジツとかにこだわりすぎていたかもしれない、ただ昔の仲間とむかしみたいに(ここ大事)遊びたかっただけだ、そのためにはやっぱり同じ一つの夢を追いかけなくちゃ、あの感じは戻って来ない、とはいえそれは火乃絵ひとりがどんなに訴えたって、遊んでいるうちにしぜんの感情としてみんなの中に蘇ってこないかぎりはどうしようもない、いったん火乃絵はひのえが今日まで考えてきた、夢に見てきたたくさんをぜんぶ擲つ必要があるのかもしれない、

どんなに失くすまいもしてきても、やっぱり人間は初心をどこかで忘れてしまうように出来ているのだろう、ただ「遊ぼう」とか「ごめんね」とかいえばよかった、返事はそうしないとかえってはこないし、それはこだまではない。

火乃絵はついひとりの考えに熱中して、世界が見えなくなってしまう、中学高校で文実をやっていたときから何も変わっていない、とはいえこうやってまた裸になるためには、ひのえはどうやらそういう経路をたどるしかないらしい、人騒がせのうっとうしい奴だか、今日はそいつとこれで手打ちにしよう、——

夢を殺すことはしない、それを裡に秘めるといことを、いいかげん覚えたらどうだ? 刑罰は重いが、どうやらまだ、虹の向こうの光の建築をすすめるまでの、——休暇はかせげる。

文月七日

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