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【保育者に聞く!vol.1】Tommyさん

◆​ Tommyさん(女性・30代)
日本での小学校教諭を経て、現在は海外で保育士をしているTommyさん。過去の苦い経験を絶ち切り、日本とはまったく違う文化や環境の中での保育を楽しんでいる行動力に溢れた素敵な保育士さんです。

―まずは簡単にご経歴を教えてください。

大学の4年間は英語を勉強していて、卒業後は短大に入り直しました。短大では、2年で小学校教諭から保育士、幼稚園教諭を取りました。卒業後、すぐには就職はしなくて、3ヵ月後の教員試験を受けるために、しばらくフリーターをしてから、卒業の1年後に教員になったんですよね。その後、小学校で教員を8年やってから、カナダに渡って今は保育士として働いています。


―なぜ大学に入った後に短大に入り直そうと思ったのですか?

もともと、子どもと関わるのが好きっていうのはあったのですが、将来何がしたいのかは分からなくて、とりあえず大学に行こうって思って。そのときに、「英語をやっておけばやりたいことが見つかるかも」みたいなノリでした。

実はそれまで海外に出たことがなかったので、何も知らなかったんですよね。大学のとき、中高の教員免許の時に行った教育実習がすごく楽しかったんですが、自分自身が英語のこと知らないのに偉そうに教えているっていうのに違和感があって。だから、教育実習が終わって卒業までの間に、弾丸で2週間オーストラリアのシドニーに語学留学に行きました。申し込んでから親にも言ったんですけど、よく、思い切ったなって自分でも思います。でも、それがターニングポイントになりました。全然話せなかったのに、ホストファミリーがすごくいい人で感動して、そこから英語をしっかりと勉強し始めました。

ちょうどその頃に、子どもとの関わりがあるボランティアにいく機会がありました。大体、大学3年生の頃ですね。その時に、私、子どもと関わることが好きなんだな、と思って。大学卒業後のことを考えたら、大学に入り直したいなと思いました。両親には、申し訳ないけど2年で保育士と幼稚園教諭を取るから、あと2年だけ学生やらしてくれ、とお願いしました。


―英語を仕事で使おうとは思わなかったのですか?

なかったですね。ただ、大学はちゃんと英語勉強して卒業しよう、と。英語は個人の趣味で、海外で働きたいとか、そういうのはなかったです。大学4年生のときに、短大の試験を受けに行ったんですけど、最初は幼稚園と保育園だけで考えていたのが、中学校の教育実習が楽しかったので、小学校教諭も取っちゃおうと思って、受験をしました。それで進学先も決まったんですが、そのまま大学卒業するっていうのは、私はこの4年間で何を学んだんだろうって思い、シドニーにいくことにしたんですよね。たった2週間なんですけど、色々と感じることもあって。その後も英語は学ぼうと思って、短大のときは授業で余裕なかったんですけど、夏休みにアメリカとか、ヨーロッパに行ったりしました。



―短大卒業後、小学校教諭の道を選んだ理由は何でしょうか?


いい理由じゃないんですが、幼稚園の実習は平和だったんですけど、保育所実習の実習先がとんでもないところだったというか。大体の科目はA判定だったんですが、保育所実習だけは「ギリギリCあげる」みたいな感じで。2か所行って、2か所とも、実習先の先生と合いませんでした。そこまで言わなくても、っていうぐらい色々言われて。幼稚園実習では「本当によくやってくれる」みたいに言われていたのに、保育園は悲惨だったんですよ。

すごく覚えていることがあって、子どもと一緒に外に行くじゃないですか。みんな、泥団子が大好きなんですよね。「作って」っていうから、私も作るじゃないですか。そうすると手が汚れる。そうやって遊んでから、保育園に帰った時に、手が汚れているから、手洗ってから子どもの靴を脱がそうって思ったら、ある先生に「何やってるの、子どもファーストでしょ。自分の手洗ってる場合じゃないよ」って言われて。仕方ないから、泥だらけの手で子どもの靴脱がすしかないな、って思って。子どもの手洗うときも、自分の手が汚いと洗えないからって思っていたのに、そうやって言われていたから、とにかく子どもの手を先に洗おう、って思って。そしたら別の先生に「何で自分の手が汚いのに、子どもの手洗ってるの」とか言われて。どうすればいいんだ、って混乱しますよね。そういうことが、1か所目で結構続いて、「何を学んだんだろう」っていう状態のまま終わってしまいました。2か所目でも、「2回目の実習と思えない」とかって言われたりしながら、似たような環境で実習をしていました。それが、すごく「なりたい」って思っていたからこそ、逆に衝撃的で、なんか、保育士になりたくないな、って思っちゃいました。でも、小学校の実習は楽しかったから、小学校がいいかなって思い、小学校を選びました。


―小学校は8年いたということですが、前半はいかがでしたか。

小学校は2校経験していて、ちょうど4年ずつなんですよね。

1校目は、本当に環境に恵まれなくて、人間関係というか。もちろん、「いいなぁ」という先生はいたんですけどね。もう本当に問題になるんじゃないかというぐらい環境がひどくて。何が辛いのかっていうと、辛い時に「助けて」が言えないっていう感じで。自分のクラスは、自分で解決するみたいな風土がありました。でも、私が持ったクラスがすごく大変なクラスで、仲の良かったベテランの先生に「こんな大変なクラスは、新人に持たすなんてとんでもない」なんて言われました。厳しいクラスを担当させるなら、それなりの支援がして欲しかったのに、「自分のクラスなんだから、自分でなんとかしろ」っていう感じで。

特に3年目が大変だったんですよね。クラスに、すごく凶暴というか、周りに襲い掛かる虎のような子がいまして。他の子にケガをさせてしまったら、ケガした子の保護者に謝ったりするじゃないですか。でも、ケガさせた側の保護者に、「あんたがちゃんと見てないから」と言われて。ちゃんと相手の保護者に謝ってくれなくて、結局私が悪い、みたいになっちゃったりして。教師は、子どもの様子が変わってるな、と思ったら、親には言うんですが、その親が「うちの子がおかしいっていうのか」ってなったら、やっぱり他の子と同じように見ないといけない。色々努力はしたんですけど、クラスが崩壊しましたね。だから「大変だからどうにか助けて欲しい」って学校で言ったら「社会人として言ってはいけない、担任はあなたなんだから、1人で見なさい」とかって言われて。いやいや、それはおかしいって、思いました。「こんなに大変だって言っているのに、なぜ?」と。その挙句に、別室指導になったり、再教育センターで研修させられたりと、本当に1校目は散々でしたね。病気の診断までは出なかったんですが、精神的に相当消耗しました。結局、労働組合の力も借りながら、1校目から2校目に移ったんです。



―それはとても大変な経験をされたんですね。2校目に移られてからはいかがでしたか?

2校目は本当に素晴らしくて、「1校目の失敗から立ち直ってほしい」って言われて、当時の校長先生は本当に助けられたなって思います。ただ、1校目の経験が尾を引いてしまって、消化しきれていなかったのが大きかったです。2校目での、3年目のときですかね。辞めようかなと思ったきっかけがあって。

その頃、家庭科とか書写の授業を持っていたんですが、一緒にやっていたすごくマジメなベテランの先生がいました。その先生が、1年生を担当したときに、すごくやんちゃな子が多くで、荒れたんですよね。もう崩壊しちゃっていて。それで、その先生は、他の教師に「すごく申し訳ないけど、力不足でムリだから、できる範囲で助けてほしい」って言ったんです。私は、それは素晴らしいことだと思いました。職員室でそうやって言えることは。それが当たり前だよな、と。私もお世話になっていたので、手伝いに入ったんですけど、その時に、私の他に支援の先生がいたり、学生ボランティアがいたり、他にも担当外の先生がいたりして。私は、それにすごく違和感を感じてしまって、ぶり返しちゃったんですよね、過去のトラウマが。あのときは、あんなに訴えても誰も助けてくれなかったのに、と。私はそれで処分みたいなのを受けていて、一方で、こうやってベテランの先生でも助けてって言って助けてもらえているんだなって思ってしまって。しかも、その時期の評価の時に、「自分の担当は1人で見るのが教師です」みたいなことを書かれていて、「そんなんじゃやっていけない」って感情的になって言ってしまったんですよね。それが私の中で大きかったです。将来ベテランになったときに、私はどうなるんだろうって、すごく不安でしたし、その感情を押し殺すのが大変でした。そのときに、私もうムリだなって思って。8年目の3月で退職をすることにしました。



―辞めるときは、次に何をするっていうのは決まっていたんですか?

いえ、ただ、「日本出たいな」っていうのは思っていました。結構、外国人の友達が多くて、彼らの話を聞いていると、働き方とか色々、海外で生活してみたいなと思って。そのときに、たまたま、保育士できるんじゃないかって思って。実際に、相談に乗ってもらうほどそれが現実に思えてきて、2016年3月に辞めて、約3か月後にカナダに渡りました。その前の年に、たまたまカナダのロッキーに行っていて、すごく楽しかったんですよね。なんか、こういう生活したいなってそのときに思って、色々調べたら、カナダで保育士するっていう道があることを知りました。カナダは、免許書き換えというか、大学の単位の書き換えの制度があって、すべて単位が書き換えられたら、免許証がもらえるんですよ。私の場合は、単位が足りているか微妙だったので、現地のカレッジに入って、1年ぐらい通ってから結局免許を取りました。こっちで働いている日本人の保育士さん、まあまあ、いますよ。



―カナダの保育園は、日本の保育園とは違いますか?

こっちではデイケアっていうんですけど、楽ですね、まず事務作業がゼロ。連絡帳もなくて、保護者が、「何月何日何時に送ったよ」ってサイン書いて、迎えに来た時にまた、「何時にピックアップしたよ」って書いて出るんですけど、連絡事項があれば、そのシートに一言書くっていう。あとはメールとか電話でやりとりすることもあります。引き継ぎもないし、行事もクリスマス会とかぐらいで、ほとんどないです。

あと、日本と違うのは、日本は大体が同じ年齢でクラスを分けるじゃないですか。こっちは、0〜2歳と3〜5歳なんですよ。保育士1人に対して、3〜5歳は8人しか見ちゃいけなくて、0〜2歳は4人ですね。私はそっちの資格を持っていないから、小さい子の方はあまり詳しくないんですが。こっちだと、資格が4種類あるんです。アシスタントライセンスが、1人しか見られなくて、主にサポート。それから、ベーシックが3歳〜5歳。インファント・トドラーが0歳〜2歳。最後に、スペシャル・ニーズ、これは特別支援ですね。私はベーシックより上を取るとしたら、半年とか1年とか学校に通わないといけない、という感じになっています。しかも、こちらのラインセンスは更新制です。最初は1年更新で、クリア条件は1年の間に500時間就労ですね。その次は5年になるんですけど、5年の間に500時間の就労プラス40時間のワークショップを受講ですね。ワークショップはお金かかるのもあるんですが、図書館が無料でやってくれたりしています。


―実際に2年やられてみていかがでしょうか。

子どもも家では中国語だったりフランス語だったりするので、みんな英語ペラペラとも限らなくて、言葉の面で苦労することはありますが、やっぱり可愛いですよね。それに、面白いなって思うのは、全然違うんですよ。兄妹でも、お姉ちゃん茶髪なのに弟は金髪とか。小学校だって、髪を染めている子がいたら、先生は「あなたの髪、素敵ね」って感じですよ。デイケアは、ピアスしてくる子もいるし、マニキュアしてても普通です。むしろ、褒めポイントですね。髪の毛の色、目の色、肌の色が全然違うから、みんな違うのが普通に認められている世界。それが良いなって思います。アフリカンの子の髪の毛って、ドレッドヘアーとかですごいおしゃれな子もいるんですよ。みんなの違いを認められて、良さを認め合っているのがいいな、って思います。

あと、日本だと評価で給料決まるけど、こっちはそういう評価で給料決まるっていうのは保育士はなくて。大体、時給です。ただ、保育士の時給自体は他の職種よりも高くないので、政府が補助で、給料がプラスアルファで出ています。2020年までに1時間あたり2ドル上げるって言っていて、今年1ドル出ていますね。残業したら残業代もちゃんと出ますし。もっとも、大体18時までですけどね。18時以降に迎えに来たら、両親に対してお金をチャージします。その辺、すごく厳しいんですよ。

あと、余談なんですけど、保育園に入るときって履歴書を書くじゃないですか。こっちって、顔写真を求めるのも、性別を書かせるのも、年齢を書かせるのも禁止なんですよね。日本の履歴書のこといったら、カナダ人驚きますよ。年齢聞いてどうすんのって。

そういう色んな意味で、いい環境だなって思います。人間関係も温かくて、卒園した子の両親から、プレゼントをもらったりもしますしね。いつもありがとう、みたいな感じで、その文化にビックリしました。日本で教師していたときよりも、よっぽどできてないはずなのに、これでいいんだって自信がつきますよね。教師の前に、1人の人間だってことを認めてもらえている気がします。


―最後に、他の保育者の皆さんに何か一言あればお願いします。

うーん、日本って、学校も多いし、保育士の保有者はたくさんいるはずじゃないですか。それに対して保育士不足なのは、どう考えても計算が合わないですよね。報われないとか、給料少ないとか、ボランティア精神みたいなので成り立っているから、本当に「やりがい搾取」だと思います。カナダも保育士不足ではあるんですけど、1人にすごく負荷が掛かっているかというと、そういうわけじゃないんです。

まあ、私は逃げてきたタイプなので、言う立場じゃないかもしれませんが、自分が子どもと関わることで、幸せになれる環境にいて欲しいな、って思います。ちゃんと認めてもらえるところというか。みんな一生懸命頑張っているのは分かるじゃないですか。その頑張りを、自分自身でも十分やっているなって、思える環境にいて欲しい。さらに、別に、場所に拘ることもないと思います。今のままじゃいけないって思っていたって、環境が変わらないこともありますからね。

(おわり)

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