髪かたち

小さいころは
ずっと髪を短くしていたの
夏はかりあげにしていたわ
別に好みだったんじゃないの
そうしろって言われていたから
素直に従っていただけよ

母はちょっと風変わりな人で
娘たちの髪を毎朝結うのは
面倒だと言ってはばからなかったわ
だから自分でできるようになるまでは
ずっと髪を短くさせていたの
知り合いが「そんなに短くさせて」って
非難めいたことを言っていたのを覚えてるわ

中学生になって
初めて髪を伸ばしたの
学生らしく結えるほどの長さにしたわ
別に理由はなかったの
ただこまめに切るのが面倒で
伸ばしては切っていただけよ

私はちょっと面倒くさがりで
癖のある髪を毎朝整えるほど
自分に手間をかけることを知らなかったわ
だから結って済むならそれでよくて
伸ばしてごまかしていただけなの
年に一度だけ短く切ってあとは放置だから
周りがちょっと面白がっていた気がするわ

大人になって
最初の数年は髪を長くしていたの
特にこだわりもなかったわ
元恋人が長い髪が好きだと言って
だからずっと伸ばしていたの

元恋人はちょっとわがままな人で
髪を短くしたら知らない人のふりをすると
ことあるごとに言っていたわ
だから合わせてあげようと思っているうちは
ずっと長い髪でいたわ
別れを告げる前に思い切り短くしたから
性格が男前だと友達に褒められたわ

あの恋をしていたころ
ずっと髪は短くしていたの
自分でも気に入っていたわ
あのひとは急に短くなった私の髪が
よく似合うと何度も言ったわ

あのひとはちょっとクセが強い人で
自分が好きなようにしたらいいと言いながら
独占欲が強かったわ
だから秘めた恋を続けながら
ずっと髪を短くしていたわ
誰かに大切にされることを教えてくれた恋だったから
もう後戻りはしたくないと思ったわ

社会から距離を置いて
ずっと髪を染めているの
思い切ったことをしたと思うわ
周りがどう言おうと私が欲することを
してみようと決めた結果のひとつだったわ

社会というのは不思議なもので
非常識だったことがいつしか問題ない範囲になっていて
全然悪目立ちしなかったわ
だから派手な髪色にしていれば
人が寄り付かないと聞いていたのに
相変わらず知らない人によく話しかけられて
髪色は関係ないんだと思ったわ

誰かに振り回されて
髪かたちを決めることはもうないと思うの
まだ先行き不透明ではあるけれど
自分の心がひっかかりなく納得するような姿で
これからはきっと生きていけると思うわ
これからはそうして生きていこうと思うわ