紙上の空論

実物をこの目で見たことも
ましてや書いたこともないけれど
この国にはどうやら
いろんな色の「紙」があるらしくて
ただのつるつるした薄い紙だけど
絶大なる力を持っているらしいの

「茶色の紙」は書くだけで
赤の他人があら不思議
夫婦という名の家族になるんですって
法的に認められるということは
想像以上に強い力
責任を負うことにもなるけれど
社会的に守られることも多くなる
「茶色の紙」を書きたくて
うずうずしている人が世の中
たくさんいるらしいわ

「緑の紙」は「茶色の紙」の後
背景にはいろいろあるんでしょうけど
「茶色の紙」を取り消すためのもの
夫婦を辞めようと決めたときに
無かったことにできる呪文
履歴の抹消はできないけれど
少なくとも契約解除はできる
「緑の紙」を書こうと最初から
思っている人はいないだろうけど
結構な数の人が書くのよ

「茶色の紙」でつながって
「緑の紙」でなかったことに
ちょっと興味があるわ
特に「茶色の紙」がつなぐものにね
だってきっと必要としてるの
自分で選ぶ 自分を守ってくれる他人を

あとオプションで
「青色の紙」を書く人もいるらしいの
新しい命を自らこの世に迎えた証
人の行為の中で最も と言っていいくらいの
究極のエゴのかたまりの結果よ
全てのことを負う覚悟で書いてね
ふわふわ召喚するものじゃないわ
「青の紙」が意味する責任を
軽く考えないで我が身を鑑みて
総じて喜ばしいことになるように

それから最後に
誰もがたどり着く「黒い紙」があるの
それはあなたがこの世を去った証
タイミングを選ぶことができない
孤独な身には結構な問題よ
完全に自分にまつわることなのに
もはや自分ではどうにもできない
「黒い紙」に至るときには
思い残すことなくいられるように
だからまだ縁遠くあってほしいかな

「青い紙」で始まって
「黒い紙」でおしまいに
「茶色の紙」も「緑の紙」も
始まりと終わりには逆らえない
もしかしたら人は結局のところ
自分の「黒い紙」を誰かに託すために
人生をかけて茶色や緑や青の紙を
書いていくのかもしれないわ

まだどの色の紙も書いたことが無い
私にはまだ分からないことばかりね