我が見む

ふたつのなだらかに連なる山々の絵を
中学生のときに描いたことがあったの
ただの練習でスケッチブックに描いた
モデルも意味も添えてない絵だったの
そのふたつの山に向かって夕日が沈む
グラデーションを描きたかっただけで

スケッチブックはとうに捨ててしまって
そんな絵を描いたこともすっかり忘れて
いつのまにか私はいい年の大人になって
そうして

ふたつのなだらかに連なる山々に
その間に夕日が沈んでいく光景を
家のベランダからパノラマで見る
そんなところに住むことにしたの
正直ほとんど迷いもせずに決めた
15年以上前に描いた絵のような
光景が目の前に広がっていたから

ずっとつながってたんだと思ったの
15年以上前からずっとこの場所と
たからずっとつながっていられると
信じていたけれど 去ってしまったの
これが運命というやつかもしれないと
思っていたけれど 離れてしまったの

あの山をもう戻らない弟だと思おうと
あおによし奈良の都の時代に詠まれた*
いまだに思い起こしてしまうあの町の
景色も温度も風も色も空気のすべては
あの山はもう戻らない日々なのかしら

でも間違いなく
ずっとつながってたんだと思ってるの
それだけは疑いなく
ずっとつながってたんだと思ってるの
思い出すだけの今でも
ずっとつながってるんだと思いたいの

*うつそみの人なる我や明日よりは二上山を弟背と我が見む  大伯皇女