柿ノ木コジロー(唄辺マキ)

おはなしや読み物を書いています。創作小説用のアカウントとして始めました。よろしくお願い…

柿ノ木コジロー(唄辺マキ)

おはなしや読み物を書いています。創作小説用のアカウントとして始めました。よろしくお願いします。

マガジン

  • 小鳥ことり、サクラヤマのぼれ(全28話予定)

    田舎町の高校に転入することになった美和は、叔母の勧めもあって昔馴染みの土地・元白鳥に居をかまえ、新しい生活を始めた…… そこが恐ろしい場所とも知らずに。 某コンテストに最終まで残り敗退した際、いただいた選評を元に改稿したものを更に改稿して公開します。 ホラー長編 民話伝承、高校生主人公 100000文字~110000文字予定。

  • 毎週ショートショート参加

    たらはかに(田原にか)さんの企画されている毎週ショートショート用に自身が書いたものをまとめました。どれだけ続けられるか判りませんが。できるだけたくさんになるといいな……

  • とときっずの詩

    ダウン症を持つとと(仮名)が描き散らかしたイラストに母・ヨシコ(仮)が勝手なコメント的詩をつけたイラストエッセイ。春夏秋冬各10作揃えました。誰でもお気軽に、お寄りください。

  • スタンポンの穴(全9話完結済)

    二年の四宮部長率いるおおぞら高校科学部は、夏休み前に全校を巻き込んだ「動線視覚化実験」通称「スタンプ・オン」を開始した。 お祭り気分の校内、だが開始早々に副部長の成島みずきが不思議なデータの『穴』を見つける。 その時から、いや、実はそのずっと前から、「すたんぽんの穴」の恐怖は、始まっていた……ホラー。34000文字程度の中編。残酷表現あり。第四回ジャンプホラー小説大賞二次選考まで行って最終落ちしたものを更に改稿しました。

最近の記事

『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』18

【大人たちとの対決】    そのうち、よろめくような光がぼんやりと、そのうちにふたつずつ並んで、木々の影を上ってくるのが見えた。  遅れてエンジンのむせび泣きが耳に届いた。どうも、軽らしき車が三台ほど、続けざまに上ってくるようだ。  ヒワたちは、幹の隙間から灯りが近づいてくるのを見守っていた。 ―― どうか。  ヒワは気づいたら両手指をがっちりと組んでいた。 ―― どうか、せめておじさんが仲間に入っていませんように。  空しい願いだとは感じていた。ここに小学生たちを連れて来

    • 『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』17

      【サクラヤマのぼれ】  長いと思っていた夏休みも、やはり終わりがあった。  団地に帰ってきて、掃除や学校の支度に数日費やし、さていよいよ明後日から新学期だ。  夏休み最後が土曜と日曜、というのも何か郷愁を誘うものだ、とヒワは窓の外に広がる大山の景色を眺め、ひとり溜息をつく。  日が傾きかける頃だった。  まだ夏の気配は消え去っていないものの、北の空は黒くて厚い雲に覆われてどこかひんやりと湿った風が窓から吹きこんでくる。  ひぐらしの声が響く。それは消えるかと思えば次が続

      • 祈願上手、でも口下手でごめん

         えと……口に出してから下を向く。ことばが、どうしてもうまく出ない。  祈願上手、と巷では噂されていたが、口下手なのはいつまでも直らない。 「先生!」中年女の臭い息が迫る。つい顔をそむける。 「コアちゃん、本当に帰ってきますよね!?」  迷子猫を見つけてほしい? 神頼みかよ、オメー、隣近所這いずり回って捜したんかよ? 心の中では嗤っていた。でも、私が祈ればまず間違いはない。先週この女が泣きついた時に頂いた金額分は真剣に祈った。猫に罪はない。いくら、高価な純血種でも。 「ロシア

        • 『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』16

          【駅前での夏】  夏はどこまでも暑くまぶしい。  特に夏休みともなれば、世界の眩しさはさらに増している気がする。  ヒワは学校帰り、青沢駅の前でふと立ち止まり、空をみる。  また夕立でも来るのだろうか、北の方、元白鳥のある方にはまっ白い積乱雲がもくもくと立ち上がってきていた。 「よぉ」  かけられた声にふり返ると、ケンイチが立っていた。  景色の眩しさが一段階増して、ヒワは反射的に目を細め、それから大きく見開いた。  白い半袖の開襟シャツは制服なのだろうか。パンツも黒い制

        『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』18

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        • 小鳥ことり、サクラヤマのぼれ(全28話予定)
          17本
        • 毎週ショートショート参加
          4本
        • とときっずの詩
          4本
        • スタンポンの穴(全9話完結済)
          10本

        記事

          『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』15

          【ヤキソバの御礼】    特に惜しいと思っていたわけでもないので、せがまれるままヒワはヤキソバのパックをひとつ、手渡した。炭酸は『シュワシュワしして』嫌いだというので、一本だけあった緑茶を渡す。  急にのどが渇いているのに気づき、ヒワはカルピスソーダの栓を捻り開けた。 「おや、それは甘いのだね」  白目を青く光らせて、童女の顔が興味津津といったふうにヒワをみる。 「これ、炭酸ですよ」 「なーんだ。シュワシュワか」  目玉ババアは、ヤキソバのパックを乱暴に開けたせいで、輪ゴム

          『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』15

          『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』14

          【お祭りとヤキソバ】  もう二度とのほほんとした時は戻ってこない、そう感じながらも時間はずんずんと過ぎて行く。  実際に学校が始まり、そちら中心の生活が始まってみると、 「家庭調査票、未提出の人は明日までに」 「来週はゼミの外出活動が」 「履修希望できたか? みんな」 「進路課より……」  とにかく忙しいばかりでヒワは目の前の諸問題を片付けるのにせいいっぱいだった。  学校は自由な校風で髪型もピアスすらも自由な私服通学ということもあったが、同じクラスになった子から 「面白

          『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』14

          『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』13

          【噂と真実】  いったん東京の実家に帰ったはいいが、なぜか、落ちつかない。  兄の圭吾からしつこくあちらの様子を聞かれたのだが、菅田の件については全く知らぬ存ぜぬを通して適当に受け答えていた。 「で、結局ネコムスメとかにも会ったんだろ? どうだったんだよー」  と突っ込まれ 「だったらアンタが行けば?」  と冷たく答えてやったものの、やはり、落ちつかないのには変わりがない。  どちらにせよ、一週間もしたらあちらに戻らねばならない。入学が決まっているからには、また、準備に戻

          『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』13

          「とりま、文学を語る」人に会う

           まず「蜘蛛の糸」を渡す。彼は薄い本を両手で挟み、少し上をみて 「すんでのところで脱獄にしくじる小物の話だ」と、言った。 「本当に? 分かるの?」 「ああ」  知人に紹介された彼には特殊な才能があった。彼は今まで一度も本など読んだことはないのだが、両手で挟むと口から中身が要約されて出てくるのだそうだ。とりま説明できる、というので俺の界隈では「文学トリマー」と称されていた。  今日はどうしても確かめたいことがあった。でも再度テストだ。  次に手渡したのは「アンドロイドは電気羊の

          「とりま、文学を語る」人に会う

          『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』12

          【UNO大会】  ルリコはそれなりに背が伸びて、昔のぽっちゃりしたところはすっかり無くなってしまい、ますます美少女度に磨きがかかっていた。 「コーラ二リットル、途中で落としちゃった。ふた、すぐ開けないで」  つり上がり気味の大きな眼でヒワを一目見て、あいさつも無しにそう言ってコーラを差し出した。 「うん、わかった」  いっしゅんこちらを見据えただけだったとは言え、相変わらずでメヂカラが強い。  ルリコは昔から、人を見透かすようにじっと眼の中をのぞき込んでくるような子だった

          『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』12

          『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』11

          【ヤベじいとルリコ】  本当なら、いったん東京に帰った方がいいとは思うけど、明るいうちに団地に帰って、家から一歩も出ないでいれば大丈夫だろう、とようやくケンイチが答えた。 「ま、おまえんちおじさんちも……あんまアテにならなさそうだしな」 「よくご存知で」にへらっと笑う伸介の顔が目に浮かぶ。 「ねえ、ケンちゃん。目玉ババアに、報告に……」 「行くなよ」  ケンイチはそこだけは強い目線をくれた。 「そのまま、家に帰ってすぐ鍵閉めて、オレが行くまで誰が来ても出るなよ」  バスな

          『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』11

          『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』10

          【呪いと事件】  さっくりと『呪い』のことばが出たおかげで、逆に話しやすくなった。  ヒワがここに越してきてからの話を聞かせている間、ケンイチはずっと黙って朝食を租借しながら耳だけは傾けていたが、カンダヨシノの話を聞いた時には、さすがに彼も動きを止め、まじまじとヒワの顔をみて、少し置いてから「マジかよ」そう言ったきりだった。 「知ってるの? カンダさん」 「知ってるも何も……」狭い地域なので、ケンイチも知らない訳はなかった。菅田吉乃は小学六年の終わり頃に団地に引っ越してき

          『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』10

          『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』09

          【ケンちゃん】  駅前に降り立ってから元白鳥行きのバス停まで行ったは良かったが、ヒワはそこから動けずにずっとベンチに座り込んでいた。  やっぱり智恵に相談しよう、今からアパートに行っていいか電話してみよう。  細かい震えはまだ収まらなかったが、ようやく自分のスマホを開けてみる。  目玉は消えていた。そして、『呪われました』の文字も。  信じられない思いで、人差し指でそっと画面を撫でてみる。メールが何件か入っていた。画面が反応し、メールの受信ボックスが開く。  智恵からもメー

          『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』09

          『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』08

          【病院のカンダヨシノ】  見てきてほしい、と言われたが実際に何をどう見てきたらいいのか、ヒワにはさっぱり判らない。しばらく正面入り口前で立ち止まっていたが、よし、と息を吐き出すようにつぶやいて、ドアをくぐってエントランス正面の総合案内に進んでみた。  総合案内にいた、化粧の濃い女性は硬い笑顔で 「午前中はお見舞いをご遠慮いただいております」  としか言わず、ヒワは「はあ」と言ったきり、次の言葉も継げなかった。  しかし、ふとスマホに目を落とし、あの目玉がうっすらとこちらを

          『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』08

          『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』07

          【「呪われたぞ」】  智恵にすぐに相談した方がいいだろうか、とにかく電池切れのスマホを充電しながら……と、ヒワは着ていたジャケットに手を突っ込み、固まった。徐々に動悸が早くなっていくのがわかる。  スマホがない。  念のために持って行ったリュックも漁ったが、ない。  そもそも携帯はリュックには入れないようにしていた。  上着に入っていない、ということは、落としたか。もしくは……  目玉ババアの家に置き忘れたのか。その可能性は十分考えられる。  ヒワはたまらず外に飛び出した

          『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』07

          記憶冷凍レシピ王に俺はなる

           冷凍庫には、キューブアイスの容器が整然と詰まっている。以前はだし汁、各種ソース等々、レシピを見つけるたびに試した食材ばかりだったのだが今では、トップレシピのカリスマは、私となった。  記憶冷凍のレシピ配信者として。  幼い子供たちとの甘ずっぱい日々……すり傷、他愛ない喜び、他愛ない発見、流した涙、そんなものを水で薄めて蜂蜜とレモン汁とで味付けして凍らせる。  動画は最高で5億回再生された。子どもたちはすでに成長して、みな私の元から離れていったと言うのに。そんなことも知らない

          記憶冷凍レシピ王に俺はなる

          『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』06

          【目玉ババア】 ――ついてない、とにかくついてない  ヒワの頭の中にはずっとその言葉が回っていた。  とぼとぼとバス停から歩く、春の夕暮れのこと。  切れるはずのないチェーンベルトが、突然切れたのだ。  試しに行ってみた学校からの帰り、しかも大通りの交差点のど真ん中でのことだ。よろけた拍子にあやうく、曲がって来たトラックにひかれそうになった。  通学に使う予定のチャリは、すでに確かにオンボロだった。  智恵の友人宅から貰った時からチェーンカバーの後ろ側が取れていた。自

          『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』06