∂ 地獄 -jigoku- ②
▼亊始:1−1「たゆたいのうた、蝉の声」
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夏至
AM6:34
目を覚ますと、見慣れているはずの天井が初めて見るものに感じた。優は、その奇妙な感覚が“未視感(ジャメブ)”であると知っていた。
既視感(デジャヴ)の反対の感覚だ。
瞼を開いては閉め、開いては閉めと繰り返す。すると、少し遅れて全身の感覚も起き始める。それに伴い腹に掛けている古めの薄手のタオルケットの肌触り、敷き布団の中途半端な柔さ……この茹だるような暑さとまとわり付く湿気を知覚し始める。
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