見出し画像

新しい人が住むことになった、長野の実家の話

先日、兄夫婦が久しぶりに訪ねて来てくれた。
コロナが流行ってから、会うことがためらわれていて、電話で話すだけだったので、会えることがとても嬉しかった。
その時に、兄から実家を売ったお金の一部だと、お金の入った封筒を渡された。

実家を欲しいという人がいると、兄に連絡があったのは、今年の雪解けの前。
最初は、実家の近所の人からの電話だったことなど、いきさつは兄から聞いていた。
東京のリタイア前のご夫婦で、スキーに来て実家のある土地が好きになって、ここに住みたいと思うようになり、家を探していたそうだ。
住むようになったら野菜を作りたいとのことで、実家には敷地内に畑があって、見に来てみて丁寧に住んでいた家だと分かって、気に入って下さったとか。
私の家は、父は郵便局に勤めていて、母が農業をするという兼業農家で、それなりに農機具などもあるが、新しく住まれる方は、使えるものは使ってくださるとのことで、家を完全に片付けなくて済んで良かったと兄が話してくれた。

私は、実家が人手に渡るのは寂しい気もするけど、だんだん古びてそのまま朽ちていくのを見るよりは、欲しいと言って下さる方がいらっしゃるなら譲ったほうがいいと前から思っていた。
だから、無事に契約が済んだという報告をもらってホッとした。

そう言えば、両親はいくつまで長野の家で二人で暮らしていたのだろう?
はっきりは覚えてないが、両親が70代半ば過ぎた頃だろうか、兄の家に離れを建て、冬の間だけ名古屋で過ごし、春になると長野へ帰っていくという暮らし方を始めた。
そして、自分たちで納得して決めたらしく、ある年からずっとこちらで生活をするようになった。数えてみるとその時両親は、80歳をいくつか超えていたようだ。
それから、長い休みのときは両親を連れて実家に帰った。いつも兄夫婦と、私達夫婦も一緒だった。
家の鍵を開け、窓を開けて布団を干し、掃除機をかけ、雑巾をかけ、やっと懐かしい家に戻ったと、ホッとしたものだ。
その頃になると、近所の人達が、元気だったかねと野菜を手に顔を出して下さるのだった。
姪たちの家族も途中から合流して、大勢で賑やかで楽しかった。
両親が、90歳を越えて亡くなったあとは、主に兄夫婦が家の手入れのために年に何回か実家を見に行ってくれていた。
家の周りの草取りや、冬の雪囲い、雪下ろしを頼んだり、その支払いと共に、近所の人とのお付き合いなど、兄夫婦が全部やってくれていたので、私はいつもありがたいと思って感謝していた。

以前、両親が亡くなった後に、もし家を売ることがあったら、お前にも分けてやるからな、と兄に言われたことがあったけど、その時私は、家の世話をしてないからいらないよと伝えた。それなのに、今回、兄がお金を届けてくれたのだ。
田舎のことでそれほど高く売れたわけでもなく、いろいろな手続きで手数料やら何やらかかったはずなのに、私にまで分けてくれるという。
いらない、受け取れないという私に、兄は、あの家を売ったお金なので、親父もお袋もお前にもやりたいと思っているはずだ、俺もお前には分けてやりたいと思っている、と言ってお互いに譲らない。お互いに泣きながら自分の思いを話すだけで、結局、返すこともできず、素直に受け取ることもできず、兄夫婦は帰り、私は悶々としていた。
夜、お義姉さんさんから電話があって、


「私はね、あまり口出しをしないようにしているけど、今回のお金は素直に受け取って貰いたいと思うの。というのは、おじいちゃんとおばあちゃんが、二人しかいない兄妹だから、仲良くやってくれといつも言っていたよね。
パパはいつもあなたのこと大事に思っているよ。あの家で一緒に育って思い出もたくさんあるその家を手放すことを決めてから、パパは長男としての務めをちゃんと果たしたいと思って頑張ってきたと思う。だから、パパの気持ちをくんで、言うことを聞いてお金を受け取って欲しいと思う。
それでね、パパに申し訳ないとかと思って、変に気を使って無駄にあのお金を使って欲しくないの。あなたがあなたのために、大事に使ってほしいと思っているのよ。」

お義姉さんの話を聞きながら、両親に可愛がられ、兄にも、一人だけの妹だからと言って可愛がられ、このお義姉さんともずっと仲良く付き合ってきたことを強く感じて、このお金にはとても深い愛情がこもっていることに気がついた。
お義姉さんの話は、とても優しくて暖かくて私の心にしみた。
遠慮なく頂いておこう。
そして素直にありがとうと言おう。

今、このお金は、お守りとして、ずっと手元にこのまま大事にしまっておこうと思っている。

それにしても、私は人にしてもらうことが多くて、してあげることが少ない。
息子からはいつも、これからは人の喜ぶことをしていけ!と言われてきたけど、本当にそうだなぁと、しみじみ思っている。

画像1

上の写真は、父が手入れをしていた実家の庭。
それぞれの季節の花を咲かせ、夏の夜は籐の椅子を出して夕涼みをしていた父の姿が目に浮かびます。

ここまで読んで頂きましてありがとうございました。感謝!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?