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密室トーク Vol.1

地理人(今和泉)からは、コミュニティハブの一環で、毎月密室トークイベントをお届けしています。
題して「好きで始めたことが本業になってしまったら?」

「好きなことで仕事をする」…こう聞くとシンプルで理想的な気もしますが、自発的に始めたメインの活動が主な収入源になっている人は、実際のところどのくらいいるのでしょうか。果たしてどうやって生計を立てているのか、仕事はどう変わっていくのか、好きなことを本業に近づけつつさまざまな局面にいる2人のゲストをお呼びして、リアルな事情に迫りました。(以下、開催レポートです)

・日時
6月27日(火)19:30〜21:00

・話し手(聞き手)
松澤茂信(合同会社別視点代表)
村田あやこ(路上園芸鑑賞家)
今和泉隆行(空想地図作家)

3人とも1980年代前半から中盤までの生まれで、大学を卒業して15年経っているくらいですが、ここまでどのような道のりを経てきたのでしょうか。珍スポット、路上園芸鑑賞、空想地図…いずれも、本人が出てくるまで、そんな肩書きで仕事を得ていた人はいなかったような気がします。1ジャンルを築いた人とも言えますが、そのジャンルを背負って食える人はまだ本人しかいないであろう、というくらいの、できたての市場とも言えます。

顕在的なニーズは全くなかったジャンルで、今でもどんな価値かは明らかではないまま、生活の糧を得ているというのは、ある種のミラクルではあります。この3人はそれを叶えたと言っても良い訳ですが、果たしてどのように叶えたのでしょうか。「新しいジャンルを立てて、好きなことで食っていく」という強い自信と意志があったのでしょうか。話を聞いてみると、3人ともそうではないようでした。何より、現在位置にたどり着くまで、紆余曲折の年月がそこそこ長く続き、今に至っていたのです。

自身の活動を柱に本業を立てていこうという意志が最初からあったのは松澤さんですが、当初はコンセプトの立ったカフェの運営を始め、その後ライターを経て、現在の別視点の始まりとなる「東京別視点ガイド」創設は2011年、大学卒業から5年後のこと。会社設立はさらにその5年後で、法人案件が本格化するのはそれから少ししてから。十数年かけて稼ぎ方が少しずつ変わってきたようです。大学卒業後アルバイトを並行していたのは7、8年ですが、業態の柱を少しずつ変えつつ本業ができてきた、とも言えるでしょう。

現在の合同会社別視点は、松澤さん自身のメイン領域とも言える「珍スポットマニア」だけでなく、その他のあらゆる「マニア」を包含して世に届ける会社ですが、紹介するマニアも会社で抱えるメンバーも増え、生み出す場や動かすプロジェクトも多くなり、3人の中では最も事業規模が大きくなりました。これもある種の成功の形ですが、自分本位で試行錯誤できて小回りが効く活動規模の良さも感じるようで、最近は「マニアなツアー」と題して、新たな会社(マニアな合同会社)も並行して始めています。マニア全体と社会を繋ぐマクロな仕事と、それよりは一人ひとりにフォーカスするツアー業、スケールの異なる仕事の特徴やそこから見えてくることを、今度は伺ってみたいと思います。

村田さんは、大学・大学院では地理学を専攻していましたが、最初に就職した会社はメーカーでしたが2年で退職、それから複数のアルバイト等、働き方の試行錯誤が続きますが、出版社に数年勤め、完全に独立するのは近年の話で、松澤さんと同じく10年を経ています。路上園芸観察を始めたのは2010年頃で、5年後のワンコイン占いによるアドバイスで発信を始めますが、顔見知りでない範囲まで波及するのはその3、4年後で、独立してからは出版、記事執筆からメディア出演まで、活動の幅を拡げています。ちなみに、村田さんのプロジェクト進行管理の仕事は安定感とスピーディーさを兼ね備え、多くの人が頼りにしている、という表向きには知られていない一面もあります。実用的な業務と、それとは全く異なる感性が求められる作家業、その両方を並行できている現在の安定感は、多くの人の憧れるところですが、近年までの長い紆余曲折は、暗中模索が続く人へのエールになりそうです。

最後に、今和泉(私)ですが、大学卒業後2年間会社員をし(2009〜2011年)、退職後はネットショップ運営の手伝いや派遣社員を転々とする本業不定期に入ります。本業不定期の最初の2年は勤めの収入が8割、自営の収入が2割でした。このままであれば転職したのですが、出版を機に割合が逆転し、2013年から自営業がメインに、2015に完全自営業となります。こう書くと自営業を確立してから長くも見えますが、定期的な仕事はほとんどなく、月収、年収は絶えず上下し続ける不安定の極みで、安定したのではなく不安定に慣れて安定した、とも言えます。

早い段階でフリー(起業)になる意志が明確だった松澤さん、定職と不定期を行き来しつつ村田さんを紹介しましたが、「好きなことを本業にすること」だけが正解とは限りません。次回はマニア活動と本業を分けている人をお呼びしてお話を聞いてみたいと思います。

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