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外回り営業中に2時間以上、ベンチでぼーっとしていた1998年冬(2)

新宿とか池袋とか、大都市の書店を回る日はよかった。
大書店は寛大だから、1日で100冊の注文を取ることは容易とさえ言えた。

しかし、そんな大都市は数えるほどで、あとは横浜、川崎くらいか。
だから2時間以上も絶望に浸れる日は、月に1回あるか、ないか。
この小さい出版社では半年しか働いていないから、合計でも何度もなかった。

ただ、この半年間はいま振り返っても濃い半年であり、なかなかよい経験を積むことができた。

平塚の駅ビルにある書店では、こぶしを振り上げられ、殴られそうになった。もちろんポーズなのだが、こちらとしては若造で経験値が低いものだから、心のなかではかなり傷ついている。それでもこの店員さんは注文を取ってくれたが。

町田のある書店では、注文は取ってやるから、変わりにこの雑誌のセットを買ってくれ、と言われ、雑誌を数冊買わされた。
こっちは月給16万の身の上だから、これはしんどい。しんどいが断ることもできない。買わされたのは婦人向け雑誌で、店をあとにすると、すぐに通りすがりの女性に理由を話して受け取っていただいた。

扱う本は基本的に自費出版本だから、キホン売れない。

ある時なんかは、神田の三省堂本店に20冊平置きしていただいた。
おまけにこの本は自費出版本ではなく、お金をかけて出版した企画本だったが、2週間で1冊も売れなかった。
この結果については申し訳ない、という言葉ではかたずけられない。
そんなこともあった。

あとは、店頭の販売員の方が注文を出してくれても、その方がバックヤードに入ると、そこに内線がかかってきて、注文が取り消されるということが1度あった。
つまり、うちの出版社についてよいイメージを持っていない上司が、裏で注文を取り消させたのだ。
20代の若者にはなかなかしんどい経験だった。

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