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平野啓一郎|小説『マチネの終わりに』前編

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平野啓一郎のロングセラー恋愛小説『マチネの終わりに』全編公開!たった三度出会った人が、誰よりも深く愛した人だった―― 天才ギタリスト・蒔野聡史、国際ジャーナリスト・小峰洋子。四十… もっと読む
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2015年5月の記事一覧

『マチネの終わりに』 アーカイブ

🎸 『マチネの終わりに』著:平野啓一郎 noteで小説をお読みいただけます ◆ 連載開始前の…

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『マチネの終わりに』第四章(2)

 きっともう、自分の演奏も聴いてはいないだろう。そもそも、今のバグダッドで、クラシック・…

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『マチネの終わりに』第四章(3)

 そうすると、ふしぎと、文章がすらすらと出てきました。なぜかはわかりません。バグダッドで…

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『マチネの終わりに』第四章(4)

 蒔野は、六月三日に現代ギターの父であるアンドレス・セゴビアの没後二十年を記念して開催さ…

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『マチネの終わりに』第四章(5)

 蒔野は恐らく、最初に会った時から、洋子を愛し始めていた。あの夜は、もうそのようにしか振…

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『マチネの終わりに』第四章(6)

 前篇・後篇で、長い話ができますね。一日ずつ、それぞれの人生について話しましょう(笑)。…

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『マチネの終わりに』第四章(7)

 平生、蒔野は、業界政治とはまるで無縁だが、数年前に、日本ギタリスト連盟の人事を巡って、祖父江が理不尽な非難を浴びていた時には、そのいざこざに首を突っ込んで、自らも大分、火の粉を浴びた。無論、祖父江を擁護するためである。  業界とは無関係のヒマな文化人まで参加して、「旧態依然」だの「権威主義」だのと一頻り騒いで鎮静化したが、そういう厄介事にいかにも無関心なはずの蒔野が出てきた、というのは、ちょっとした話題になった。  蒔野は、新聞社の取材を受け、元々はつまらない誤解に始まった

『マチネの終わりに』第四章(8)

 ギタリストとして世に出て、この世界で生きていくようになってから、蒔野は祖父江が、いつも…

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『マチネの終わりに』第四章(9)

 苦笑して頭を掻く蒔野に、祖父江は、 「珍しいですね、あなたでもそういうことがあるんです…

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『マチネの終わりに』第四章(10)

 蒔野は、クラシックの他の演奏家と同様に、必ずしもジュピターの専属ではなかった。しかし、…

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『マチネの終わりに』第四章(11)

 そこで、自分としては、クロスオーヴァーものの《この素晴らしき世界》で、大きな商業的成功…

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『マチネの終わりに』第四章(12)

【あらすじ】洋子はイラクで取材中にテロに遭い、九死に一生を得てパリに戻った。東京で心配し…

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『マチネの終わりに』第四章(13)

 木下音楽事務所の三谷は、蒔野からマドリード行きのスケジュールを変更して、往路も、経由地…

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『マチネの終わりに』第四章(14)

 そして、確かに素敵な人だが、自分とは合わないと感じていた。  こちら以上に、恐らくは洋子の方が、そう思っているだろう。直接そう言えば、きっとあのこちらの心を何もかも見透して、優しく理解するような目で、首を横に振ってみせるに違いなかったが。  蒔野は、ほどなく洋子のことを何も言わなくなった。それは、関心を失ったからではなく、彼女への思いの中に、何か気軽には人前に曝せない感情が籠もるようになったからだった。  三谷がそれに気づいたのは、バグダッドの洋子の滞在先でテロが起きた時の