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20240320 そこに観客の方がいるだけで

現在参加している公演の初日の幕が開いた。客席上空にテントはあるものの舞台の上にテントはなく、出演者が演技をするのはみな青天井の野外劇という「半・野外劇」という設えの舞台である。

▼もともと初日は雨と風の予報だったこともあり、前日の夜の時点で「着替えとタオルはとにかくたくさん持ってくるように。特に下着は忘れずに!」というお達しが舞台監督の方からあった(下着が濡れてしまって替えられないと相当体力を削られるものらしい)。なので皆それなりに覚悟と準備をしてその日を迎えたものの、当日のお昼に稽古をしている最中にけっこう強い通り雨に見舞われたときには「うわぁ、本当に降ってきた…」という、なんとも言いようのない感慨にとらわれたりしていた。

▼お昼の雨は通り雨だったのでひとまず復旧したものの、いざ間も無く開演となった時、強い雨と風、そして雹が降ってきた時にはもう笑ってしまった。今回の座組みでは舞台監督の方が結構強力な晴れ男ということもあって、会場に入る前日の積み込みの日から晴れ続きで楽観していた部分があったのだけれど、そんなことを忘れてしまうくらいの荒天だった。

▼野外劇に慣れている古参の俳優さんたちからすると「雨が降ったら降ったで結構かっこいいんですよ」という、余裕のあるコメントも出ていたりしたものの今回の半・野外劇という設えからするとひとまずお客さんたちは屋根があって安全で、濡れるのはただ俳優ばかりなのだった。雨は開演して割とすぐに止んだものの、「予報ではこのあとにつよい風が吹きます!」という舞台監督の方からのウエザーリポートそのままに、風が吹きまくって舞台裏は大変なことになっていた。

▼ともすると雷鳴が轟き、強い風が吹き、稲光がたまに閃く舞台の上ではこれまでの稽古がどうだとかいうことは思い出す暇もなかった。強い風に吹き飛ばされそうになりながら、雨でツルツルする地面に滑りそうになりながら劇が進んでいったのはひとえにそこに観客の方々がいたからである。もしあの天気で関係者だけでただ稽古をしていたら「ああ、これはダメだ!」といってみんなで客席に避難していたはずだから。

▼稽古場でつくれるのは演劇の半分だけだと常々思ってきたけれど、今回はもっとその感覚が深くなった。天気と同じかそれ以上に、本番当日まで、その姿形がわからないのが観客の方々である。観客の方が観にきてくれるまで、俳優も演出もスタッフもまったく空の客席に向かって何ヶ月もリハーサルを重ねてきた。そこに観客の方がいるだけで、袖で他の俳優の台詞を聴いていてもわかるくらい、俳優の集中力はいや増しに増すのだった。これまで塗りきれなかったキャンバスの空白を観客の方の存在が埋めてくれるのをしっかりと感じながら、舞台の上で強く吹く春風を感じていた。

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