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20240409 りゅーとぴあの楽屋で聴いた『一握り』

先日お邪魔した高田馬場経済新聞のラジオでご一緒させていただいたクラーク記念国際高校の秋山先生という方が、高校で演劇などの表現を教えながらご自身はラップを専門とされているということで「高校でラップを教えているんだ!」とびっくりした。高校生たちが卒業に際してトラックに乗せて親御さんへの感謝を伝えているのを拝見して、昨今のYouTubeのショート動画で流れてくるMCバトル的なフリースタイル&ディスリスペクトのアグレッシブなラップとはちがう素朴で温かみのあるラップに素朴に胸を打たれたりしていた。

▼ラジオの中でもそういう話になったけれども、あるとき舞台の演出でラップが流行ったことがあった。蜷川さんなど著名な演出家の作品で、大きな舞台を観に行くと大勢のアンサンブルやギリシャ劇のコロスが出てくるシーンではやたらみんな台詞をラップで語っていた時期があった。『パチンコ 』で昨年の岸田國士戯曲賞を受賞された東葛スポーツさんの代名詞もやはりラップだし、リズムと音に言葉と物語を巧みにハメていったままごと柴幸男さんの『わが星』もやはりラップである。

▼もちろん同世代でそうした表現に触れているから、ラップをすることへの憧れは多少なりともあった。自分の団体で2年前につくった作品でも、もはや完全に東葛スポーツさんへのオマージュとして全員でラップをするシーンを組み込んだこともある。音とリズムの中で韻を踏み、メッセージを刻んでいくような言葉を探すのはやってみると無茶苦茶難しかったけれども、ひとつひとつのバースをひとりひとりの俳優が考えてそれぞれのスタイルでラップをしてくれた。

▼ラップということで、もうひとつ思い出すシーンがある。2023年の5月、私たちの劇団は第3回新潟劇王の決勝戦を前に楽屋で準備をしていた。そのときにメンバーの一人がふと「『一握り』を聞いとくか…」と言い出して、神門さんの『一握り』のMVをなんとなくYouTubeで見はじめた。神門さんがラップに出会ってからラッパーとして身を立てるまでのことをたたき込んだ15分の動画を、なんとなく見出したら目を離せなくなってしまって、結局最後まで画面に食い入るように観てしまった。

▼「え、本番直前にこれ最後まで観るつもりですか?」と、俳優の丸山という男は目でチラチラと私に訴えかけてきていたような気もするけれども、押し切って結局みんなで最後まで観てしまった。恥ずかしながら、観終わってすこしエモーショナルになっていたのは本当だった。身の丈もわきまえずに「世界基準の演劇がつくりたい」と願うようになり、それをみんなの前で口に出し、新潟滞在中にりゅーとぴあの専属舞踊団のNoismさんのリハーサルをみんなで見学させてもらって「すごいだろ、本当に世界基準のダンスカンパニーが新潟にあるんだよ!!」とロビーで興奮しながらメンバーと話した。演劇のコンクールでも決勝に進むことができるようになっていたけど、自分たちの演劇にはまだ何もかもが足りていないことは自分が一番よくわかっていた。

▼勝ちたい勝ちたいと強く願ったそのコンクールで、結局私たちは勝つことができなかった。悔しかったけれど、負け惜しみをいったりするよりも先にその演劇祭や、演劇祭に参加していた他の劇団の人たち、審査員の方々、そして新潟の人たちに対する感謝がこみ上げてきた。二度の新潟への旅を経て、自分たちがこれから進むべき道のりがはっきりとしたから、今結果が出なくても焦ったり狼狽えたりしなくてもいいのだと思えるようになっていたからだ。

▼いつか私がラップをするとして、その時のパンチラインは「信じてた あの日のまま、信じてた俺は幸せだ」で新宿区・高田馬場・西早稲田というお世話になったこの街の名前で韻を踏むのだと決めている。「こうなることを知ってたぞ」と言える日を思い描いて、頑張って演劇をつくるのである。


りゅーとぴあでのアップの様子 photo by Kyono Hirose
『コメの国の米吉の冒険を記す劇』舞台裏プリセット photo by Kyono Hirose
同上 photo by Kyono Hirose

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