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加工でんぷんとでんぷんの違い、効果、安全性について考えてみた

みなさん、こんにちは。

加工食品の裏を見ると、「加工でんぷん」という表示をときどき見かけます。よく見ると、食品添加物の欄に書かれています。加工でんぷんはでんぷんと何が違うのでしょうか。何から、どのように作られ、何のために使われているのでしょうか。そもそも安全なのでしょうか。加工でんぷんにまつわるさまざまな疑問に答えていきましょう。

でんぷんは植物がつくる貯蔵物質、水に溶けず、老化する!?

でんぷんは、お米や小麦粉、トウモロコシに含まれる炭水化物で、グルコースという物質が100個から数万個、つながってできています。でんぷんは植物の中で自然に作られ、人間はそれを食糧としてきました。でんぷんは、人間が持っている消化酵素でグルコースにまで分解され、小腸壁から血液中に入り、主にエネルギー源として使われます。でんぷんは、われわれにとって、なくてはならない成分なのです。

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でんぷんは長い間、栄養源として使われてきたものなので、何の問題もなかったのですが、加工食品の登場とともに、でんぷんの性質を変えて、より使いやすくする、あるいは新たな機能性を持たせるための研究が始まりました。
もともとでんぷんは水に溶けません。澱粉という名前の由来は、水の中に沈澱させて集めた粉というところからきています。でも、水に溶けたほうが、加工食品を作る際に便利な場合があります。
また、でんぶんは老化します。老化といっても年を取るわけではなく、時間とともに水分が抜けて、硬くなることを老化と呼びます。お米を炊くと軟らかくなりますが、炊いたご飯をそのままにしておくと固くなってしまいます。焼きたてのパンは軟らかいですが、古くなったパンはぼそぼそです。これらは糊化(=アルファ化)して軟らかくなったでんぷんから水分が抜け、生のでんぷんに近い構造になるためで、これをでんぷんの老化といいます。でんぷんの老化を防ぐことができれば、食パンの賞味期限を延ばすことができますし、でんぷんを使った食品の食感を変えることも可能です。

でんぷんの欠点を補いつつ、より優れた性質を持った食材を作ろうとして努力を重ねた結果できたのが、加工でんぷんです。加工でんぷんを開発した科学者には心から敬意を表します。そしてこれをいろいろな加工食品に入れることで食感を改善したり、賞味期限を長くしたり、安価にしたりと、消費者にとってメリットのある加工食品が次々と登場しました。

でも、加工でんぷんが本当に安全なのか疑問に思う人もいると思います。そもそも、加工でんぷんがどのようなものなのかも、あまり知られていません。得体のしれないものであるからこそ、加工でんぷんを使わない食べものをできるだけ選びたいという人もいるでしょう。そのような人にとって、加工でんぷんの話は、きわめて複雑で、難解なのです。これから順を追って説明していきます。

加工でんぷんには「でんぷん」と表示されるものと「加工でんぷん」と表示されるものがある?!

加工でんぷんは、天然のでんぷんに、物理的、酵素的、化学的な加工(処理)をしたものです。物理的な処理とは、石臼や粉砕機を使って細かくすることで、小麦から小麦粉を作るのも、物理的な処理です。酵素的な処理とは、たんぱく質の一種である酵素を反応させて、でんぷんを小さくすることです。人間の唾液や膵液には、アミラーゼという消化酵素が含まれており、でんぷんを分解しています。アミラーゼを使うと、大きなでんぷんを小さな塊りにすることが可能です。最後の化学的処理ですが、これはでんぷんと化学薬品を反応させて、でんぷんに別の化学物質を結合させたり、でんぷんの構造を変化させることです。物理的処理と酵素的処理では、もともとあったでんぷんが細かくなるだけで、別の物質が結合しませんが、化学的処理の場合は、別の化学物質が新たに結合するという点で、同じ加工でも、全く違うということがわかっていただけると思います。

これが理由かどうかわかりませんが、日本の食品衛生法などでは、物理的または酵素的な加工を施したでんぶんは、「食品」として扱われ、「加工」の文字をつけない「でんぷん」、「でん粉」、「澱粉」、「デンプン」等と表示され、一方、化学的な加工を施したでんぷんは「食品添加物」として扱われています。食品添加物なら、物質名を書かなければならないのですが、化学的な処理をした加工でんぷんは、もともと2008年9月までは食品として扱われていたので 下注)、まとめて「加工でんぷん」、「加工でん粉」、「加工澱粉」、「加工デンプン」という表示で構わないことになっています。

注)デンプングルコール酸ナトリウムだけは、もともと食品添加物の扱いであった。

もう一度整理しますと、加工でんぷんとは、物理的、酵素的、化学的に加工を施したでんぷんのことです。物理的または酵素的な加工をしたでんぷんは「食品」として扱われ、「でんぷん」などと表示されますが、化学的な加工をしたでんぷんは「食品添加物」として扱われ、「加工でんぷん」などと表示されます。

「加工でんぷん」と表示されるものは化学物質なのに、物質名は表示しなくてもよい!?

食品添加物として扱われる「加工でんぷん」は、次の12種類です。
化学的な加工を施したというのは、化学薬品とでんぷんを反応させて作ったということです。名前を見ただけで、積極的に摂りたくないと思うのは、私だけでしょうか。
・アセチル化アジピン酸架橋デンプン
・アセチル化リン酸化架橋デンプン
・アセチル化酸化デンプン
・オクテニルコハク酸デンプンナトリウム
・酢酸デンプン
・酸化デンプン
・ヒドロキシプロピルデンプン
・ヒドロキシプロピルリン酸架橋デンプン
・リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン
・リン酸化デンプン
・リン酸架橋デンプン
・デンプングルコール酸ナトリウム

容器・包装された食品で食品添加物を使用している場合、食品添加物欄にその「物質名」を書かなければなりません。でも2008年10月に食品添加物に指定されたとき、例外という名の抜け道が用意されました。デンプングルコール酸ナトリウム以外の11種類は、2008年9月までは食品として扱われ、原材料欄に「加工でんぷん」等と表記されていました。これを理由に、デンプングリコール酸ナトリウムを含めた12種類については、物質名に代わり「加工でんぷん」、「加工でん粉」、「加工デンプン」、「加工澱粉」という簡略名で表示してもよいということになりました。

これって、おかしくないですか。もし食品添加物欄に「オクテニルコハク酸デンプンナトリウム」と書かれていたら、「これなんだろう? → 食べても安全? → こどもに食べさせるのはやめよう!」 となるかもしれませんが、「加工でんぷん」と書いてあると、「でんぷんを加工したものか…」と買ってしまうのではないでしょうか。

疑問女性

表示に関して、さらに複雑なルールがあります。上記の12種類の食品添加物を乳化剤として使う場合は、単に「乳化剤」と書くだけでよく、「物質名」も「加工でんぷん」も書く必要がありません。一方、増粘剤、安定剤、ゲル化剤、糊料として使う場合は、用途名(物質名)、具体例としては、「増粘剤(加工でんぷん)」と書くことになります。
それ以外の用途の場合は、「物質名または加工でんぷん」と表示するというルールです。

食品原材料表示は複雑でわかりにくく、特に加工食品の場合は、小さな字で読めないほど、いろいろな物質名が書かれています。これを見て、その場で買うかどうか判断することは、専門家でも不可能です。

化学的に加工された「加工でんぷん」とは具体的にこのようなものです

でんぷんはグルコースがつながってできたものですが、そのグルコース残基の水酸基(化学的には2, 3, 6位)に官能基を付加・導入して、親水性や疎水性を高めたり、これらの水酸基どうしをつないで(これを架橋といいます)、構造を変えたものが、加工でんぷんです。代表的な加工でんぷん6種類について、何に使われているのか、どんな効果があるのか、紹介します。

リン酸架橋デンプン
スナック菓子、てんぷら粉、パンの食感改良に使われています。
でんぷんに少量のトリメタリン酸ナトリウムまたはオキシ塩化リンを加えて作ります。分子内または分子間の水酸基が架橋されて水酸基の数が減るため、水を加えたときの糊化(=粘り気の発生)が起こりにくくなり、でんぷんが物理的な力や酸で分解されにくくなります。これを耐せん断性、耐酸性といいます。

酢酸デンプン
たれ類に加えて増粘性を高めたり、冷凍めんの食感改良に使われています。
でんぷんに無水酢酸または酢酸ビニルを加えることで製造します。でんぷんの水酸基に酢酸基の導入することで、糊化が始まる温度が下がるほか、老化しにくくなります。また、でんぷんの透明性も向上します。

ヒドロキシプロピルデンプン
冷凍食品やパンに加えることで、でんぷんの老化を防ぐことで賞味期限が長くなります。ほかにも、食感をよくしたり、形が崩れるのを防ぐといった効果もあります。
でん粉と酸化プロピレンを反応させ、結合させることで作ります。これをエーテル化といいます。グルコースに親水性のヒドロキシプロピル基が導入・付加されるため、水に溶けやすく、また水分を保ちやすくなり、老化が起こりにくくなります。水分を多く保つため、冷蔵や冷凍の前後の変化を少なくできます。さらに、糊化が始まる温度が下がります。

オクテニルコハク酸デンプンナトリウム
ドレッシングに加えることで、水と油が分離するのを防ぎます。また食品に含まれる油が、時間とともに分離するのを防ぐために、さまざまな加工食品にも使われます。
でんぷんと無水オクテニルコハク酸を反応させ、結合させます。これはヒドロキシプロピルデンプンとは結合方法が異なり、エステル化といいます。グルコースにオクテニルコハク酸基の導入・付加されるため、水と油が混ざり合うのを助ける作用(乳化といいます)があります。またでんぷんの老化を防止する効果もあります。
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酸化デンプン
スナック菓子の食味改善や、せんべいなどの艶出しなどに使われています。
でんぷんを次亜塩素酸ナトリウムで酸化処理して作ります。ちなみに次亜塩素酸ナトリウムというのは、漂白剤の成分です。次亜塩素酸ナトリウムを加えることで、でんぷん粒の非結晶部分に作用し、バラバラのグルコース分子をつなげたり、グルコースにカルボキシ基を導入・付加することで、粘度が低く、老化しにくい物質になります。

いかがでしたか。
食品にいろいろな化学物質を加えることで、賞味期限が伸び、いつでもどこでも美味しいものが手に入るようになったのですから、食品添加物がすべて悪ではありません。ただ、一般消費者が購入するかしないかを選択する際の判断の一つとして、食品添加物を使っているかいないか、使っているのなら、どんな食品添加物が使われているのか、それはどのような物質で、どんな効果があり、また何から作られているのか、容易にわかる仕組みが必要です。今回のブログでは、加工でんぷんのすべてをご紹介できませんでしたが、これを機会に、食品の裏の「加工でんぷん」という表示に気を配ってみてください。

まとめ

・でんぷんは植物が作る炭水化物で、グルコースがつながったもの。人間の消化酵素でグルコースに分解され、エネルギー源として使われる。長い間食料として使ってきたものなので、安全。
・加工でんぷんは、でんぷんを物理的、酵素的、化学的に加工(処理)したものだが、日本では物理的または酵素的に処理したものは食品として扱われ、「でんぷん」と表示され、化学的に処理したものは食品添加物として扱われ、「加工でんぷん」と表示される。
・食品添加物の「加工でんぷん」は、化学物質と結合したり、化学物質で処理されているが、他の食品添加物のように「物質名」で表示されることはなく、単に「加工でんぷん」と表示することが認められている。
・食品添加物の表示は、消費者が購入するかどうか判断する際の材料になる。加工でんぷんではなく、物質名で表示するほうが望ましいと考える。


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