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ベルマーレ新スタジアム問題の本質

ベルマーレの新スタジアム問題が、今年になって急激に動いています。

5/17に正式に平塚市へ新スタジアムの計画を提出しました。が、これに対して市は難色を示しています。

この問題について、そもそものところから整理して、どうしたらいいのか考えてみたいと思います。

1.なぜ新スタジアムが必要なのか?

Jリーグでは、リーグに参加するにあたって各クラブは必要な資格(ライセンス)を取得する義務があります。

ベルマーレは現在J1というカテゴリーなので、J1ライセンスが必要です。

ライセンスをゲットするためには、たくさんの審査項目をクリアする必要があります。審査項目には、A等級~C等級があり、A等級の項目は最低限必ずクリアしなければいけません。

ベルマーレはJ1に参加できていますので、A等級審査はすべてクリアしています。

一方で、B等級でクリアできていない項目があります。B等級は「必須ではないが、クリアできていない場合は制裁を科す」という項目で、制裁としてクラブ名の公表と今後の構想の提出が求められます。

ベルマーレがB等級でクリアできていないのが、「スタジアム観客席の3分の1以上を覆う屋根を付けること」という部分です。

平塚競技場はメインスタンドの一部に屋根がついていますが、約15000人収容可能なので、ざっと5000人以上の観客席に屋根をつける必要があります。それには残念ながら達していないのです。

この屋根問題が新スタジアムが必要な最大の理由です。もっとも、この項目は苦しんでいるクラブも多く、ベルマーレのほかに15クラブあります。2023年のJ1では柏レイソル、横浜FCが満たせていません。

屋根を付けるには、平塚競技場は市の施設なので平塚市が屋根部分の改修を行う必要があるわけですが、市の試算では50億~80億くらいかかるようで、あまり話は進んでいません。

ほかにもゴール裏の立ち見席がピッチに対してフラット気味で角度が無いため、試合が見づらいという問題もあります。元々現在の立見席は芝生だったようです。Jリーグの前身であるJSL(日本リーグ)時代、平塚競技場は日産(現:横浜Fマリノス)が準ホームとして使っていましたが、Jリーグが始まり、フジタ(現:ベルマーレ)が平塚を本拠地とすることになったので、慌てて改修して、現在のかたちになったという経緯があるようです。(私の父曰く)

この試合の見づらさはアウェーサポーター(相手チームのサポーター)からも評判が良くなく、長年の課題です。

加えて、収容人数が最大でも15000人ちょっとであるため、入場料収入がなかなか伸びないというのもクラブ側の言い分としてはあるようです。

2.新設スタジアムに未来はあるか?

今年のJ1クラブの現時点での平均入場者数とスタジアムキャパを見ると、一定の関連があります。

データ出典:soccer D.B.及びウィキペディア

ただし、このようなデータを見る場合に注意が必要なのは、相関は因果関係を示さないということです。元々サポーターが多く、多くの入場者数が見込めるから大きなスタジアムをつくるという因果関係も想定できるため、大きなスタジアムにすれば観客も増えると安易に考えるのは危険なようにも思います。

そこで、各クラブのTwitter公式アカウントのフォロワー数を関心がある人(見込み客)として見てみて、それとスタジアムキャパの関係も見てみましょう。

データ出典:ウィキペディア及びTwitter

決定係数が0.5ちょっとなので関係がすごく強いわけではありませんが、一定の関連はうかがえます。

したがって、サポーター数が多い→大きいスタジアムを作ろう→入場者数が多くなるという因果を想定することは可能です。

ここから、スタジアムキャパを広げる=観客数増加にすぐに結びつくかは何とも言えません。

また、ベルマーレの場合、SNSフォロワー数の割に平均入場者数が多くありません。2つの比を見ると、リーグ平均が0.0959なのに対して、ベルマーレは0.0632です。関心があるライトサポーターは多めなものの、このような層がスタジアムに足を運ぶには至っていないということです。

これがスタジアムの問題なのか、はたまた交通の便などの問題なのか、クラブ側の営業不足なのかはよく分かりません。

ちなみにスタジアムの規模がほぼ同じであり、同様のライセンス問題を抱えている横浜FCはSNSフォロワー数と平均入場者数の比が0.1279、柏レイソルは0.2005とリーグ平均より高く、ベルマーレの2~3倍の効率でSNSフォロワーをスタジアムに動員しています。もちろん実際は相手サポーターもいますし、全員がSNSフォロワーなわけはありませんが。また、両クラブともベルマーレよりフォロワー数は少ないです。

ところで、ベルマーレはサッカー専用スタジアムにしたいと考えているようですが、サッカー専用スタジアムと陸上競技場兼任では観客動員数に違いはあるのでしょうか。これも今年のJ1の現時点での平均入場者数で比較してみました。

データ出典:soccer D.B.及びウィキペディア

陸上競技場兼任のほうが平均入場者数が多いという結果になりました。常識的に陸上競技場兼任が観客が多い原因とは考えられないので、スタジアムの種別と観客動員には直接の関連がないのではないかと推測されます。

つまり、サッカー専用にしたからといって、急激に観客数が増えるとは言えないのではないかということです。満足度は上がるでしょうが、それが観客増に直ちに結びつくかと言われると、そうとは言い切れません。ちなみに、収容率は競技場53.9%、専用スタジアムが54.6%でほぼ差はありません。

仮に、ベルマーレの提案通りに新スタジアムができたとして、それがベルマーレの想定通りの収益をあげられるのかというと、未知数な部分が多いように感じます。

スタジアムでライブなども出来るようにするとのことですが、天然芝を痛めるため、Jクラブの多くはスタジアムでのライブ開催には消極的です。もちろん対策をしながらやるのでしょうが、年に何回も行うのは難しいでしょうから、平塚と言う微妙な立地も踏まえ、現実的にいくらぐらいの収益が見込めるのかシビアに考えておく必要がありそうです。

Jリーグでは放映権料はリーグが一括管理しており、ヨーロッパのような莫大な放映権料ビジネスは現状望めません。また、スポンサー収入も地上波放送がまれで、ほとんどは有料のDAZN経由で見ることになるので、増やすことは難しくなっています。露出が少ないと、スポンサーになるインセンティブも少なくなりますからね。

そこで入場料収入を上げようという話なんだとは思いますが、収容2万人程度の規模のスタジアムのクラブ(福岡、京都)では、今年に関しては11000人くらいが平均入場者数になります。リーグ全体で見ると、収容率は平均で54%ぐらいです。

今年のベルマーレは10309人が現時点での平均入場者数なので、ほぼそれに匹敵しており、収容率は65.7%とリーグ平均よりかなり高いです。コロナ前では12000人ぐらいでしたから、さらに高い収容率でした。これをさらに伸ばすことが、新スタジアムによって可能なのかというのが問題になります。要は伸びしろがどれくらいあるのかですね。これは実際のところは分かりませんが、席数が増えてもなお長期的に高い水準を維持するには、相当の努力が必要なように思います。(J2に落ちれば、ほぼ不可能)

今年も残留争いに巻き込まれていますが(というか現時点では最下位)、J1にいなければ、新スタジアムの収益構造はかなり不安定になるので、現在のベルマーレのポジション的には楽観的観測はできないのではないでしょうか。

3.金の切れ目が縁の切れ目にならないように

全般的に気になるのは、平塚市(平塚市民)とベルマーレの関係が、結局は「お金」の関係に陥っているのではないかということです。

お金はとても大事ではありますが、本来Jクラブは「お金」だけでない価値を提供することが大切なはずです。

Jリーグの百年構想では、以下のようなことがうたわれています。

・あなたの町に、緑の芝生におおわれた広場やスポーツ施設をつくること。
・サッカーに限らず、あなたがやりたい競技を楽しめるスポーツクラブをつくること。
・「観る」「する」「参加する」。スポーツを通して世代を超えた触れ合いの輪を広げること。

Jリーグ百年構想-Jリーグとは

現在のベルマーレの計画では、総合公園の南東部に建設することになっていますが、それに伴い、総合公園の一部が使用できなくなります。それはまさに緑の芝生におおわれた広場を含みます。

この計画を私は百年構想に逆行していると一目見て感じました。

総合公園の価値をベルマーレが少なからず引き上げてきた面はあると思いますが、だからと言って、総合公園の一部をつぶしてしまうのが正当化できるのでしょうか。お金になれば、それで良いのでしょうか。

私は最近の日本の新自由主義的風潮を非常に危惧していますが、公園というのは、豊かな場である必要があり、それは「自由」で「無駄」で「非効率」であるということです。これらはビジネスとは真逆です。

だからこそ、公園には価値がある。

自由を謳歌できて、無駄を楽しみ、非効率が許される。そんな場こそが豊かであると私は思います。そういう場を減らすことが、百年構想に逆行しないのか。私はベルマーレの試合は見ますが、そういう意味で総合公園案には否定的です。

また、市とベルマーレの関係としては、一般市民の感覚としてはベルマーレは「平塚『にある』サッカークラブ」という認識だと思われます。

本来は「平塚『の』サッカークラブ」という感覚が必要でしょうが、残念ながらそういう感覚の市民は多くないのではないかと感じます。

サッカーに興味が無くても、ベルマーレを自分たちの街のシンボルだと思ってもらうことが地域密着クラブには必要ですが、そういう面での努力がベルマーレには欠けているような気がします。

元々ベルマーレの前身であるフジタは平塚と特別縁があるチームではなく、偶然大神に練習グラウンドがあっただけです。それをJリーグのホームタウンになりたいという平塚市側とホームタウンを探していたフジタ側の利害が一致して、ベルマーレになったというのがおおよその経緯です。

最初から利害関係という側面が強かったことは否めず、市民が願ったというわけでもなかったため、これがサポーターと一般市民の間に温度差を招いているように思います。

むろん、市側の努力も不足しているんでしょうが、主体はベルマーレであって、自治体におんぶにだっこでは困るわけです。

市としては競技場の使用料を減免したり、練習場の使用料も減免するなど、財政支援はやっています。競技場の改修(席の増設、ベンチの新調等々)もしていますし、練習場が台風で泥をかぶれば、修繕費を出したりもしているわけです。まあ、それが十分なのかといえば、ベルマーレ側からすれば不十分なのかもしれませんが、一般市民からすれば、それなりにお金出してるじゃんという感覚になる人もいるでしょう。

市側からすれば、累積では相当お金出しているのに、さらに70億出せなんて無理という反応になっているものと思われますし、市民のほうもどうしてもベルマーレに残ってほしいという人がどれだけいるかというと、私の肌感覚では思ったほどいないのではないかという気がします。

ベルマーレのほうも、提案のメリットが経済的効果などになっているのは、利害関係で今までやってきてしまったからではないでしょうか。防災拠点になども、後付け感が否めません。

ましてや平塚から色よい返事が無ければ他自治体も考えるというけん制もしているわけで、やっぱり利害関係かという印象を私は持ちました。これでは、金の切れ目が縁の切れ目になってしまいます。

これを打破するにはどうしたらいいのか。

それはベルマーレの「市民にとっての価値」をクラブ側がきちんと定めることです。

ここ2年程、ベルマーレは5位以内を目指すという目標を掲げていましたが、私はこれはやめたほうが良いと思っていました。ベルマーレは事業規模が小さいクラブですから、順位にこだわるのは元々無理があります。もちろん選手や監督は常に勝利を目指し、サポーターもそれを応援するわけですが、戦力的にどうしたって勝ったり負けたりはするわけです。では、負けたら価値が無いのかという話です。

私たちの人生はいつだって勝てるわけじゃないですよね。むしろ負けることのほうが多いかもしれない。でも、目標を目指して試行錯誤することに価値があるわけじゃないですか。そこから学ぶことだって、たくさんある。

だから試合を見て、どんな思いをサポーターに持ってほしいのかを決めなくてはいけない。いわゆる湘南スタイルはハイプレス、ショートカウンター、運動量といった特徴がありますが、見ている人からすると「相手に向かってがむしゃらにプレスをかける」「ボールを奪ったら一気呵成に攻め上がる」、そういう姿勢にワクワクしてきたわけです。それで負けても、「ふざけるな」とは思わないですよ。見て楽しいから。攻撃でも守備でも、攻めの姿勢を貫くところが人を引き付けるんじゃないですか。ベルマーレは決して常勝クラブではない。だからこそ、攻めを見せることが私たちの心をつかむのではないですか。

これはサッカー以外にも通じる話です。

ベルマーレがあることで、平塚やその他ホームタウンの人々みんなが「攻める姿勢」を持てたら楽しいじゃないですか。みんなが色々なことにチャレンジしたりすれば、街は活力を持つようになります。

「楽しめてるか。」を近年はキャッチフレーズに使っていますが、これは今書いたような意味もあるのではないかと思っています。

しかし、人に「自分もチャレンジしてみよう、攻めてみよう、人生を楽しもう」と思わせるための施策がクラブ全体でできているのかと言えば、あまりそうは思えません。だから、スポーツと縁が遠い市民からはベルマーレはただ「あるだけ」のクラブになっている。

市民の人生に必要不可欠な存在になるためにはどうしたらいいか、もっと真剣に考えるべきではないでしょうか。

今回のスタジアム問題では、ベルマーレやサポーターも自分たちのことばかりになっていて、それがサポーターではない市民にとってどんな価値があるかを示せていないように思いますし、それが「経済効果」や取って付けたような「防災」では支持は得られないでしょう。ましてや第一案が総合公園では。

この問題とは直接関係ありませんが、現在のベルマーレは成績でも相当苦しんでいます。5位以内なんて目標はとうに現実的ではなくなっており、勝ち点を1でも積上げることすら難しくなっています。

選手が失敗を恐れているのか、プレスに行けず、選手間の距離が離れ、数的有利なのに簡単に相手に突破されてしまう。こんなサッカーからサポーターは何も感じません。

こうなってしまっている原因は色々あるんでしょうが、一つには「順位」や「勝利」にフォーカスしすぎたことがある気がします。前半は勝ててはいなかったものの、何かをやってやろうというものを感じ取れていましたが、勝つための修正をしているうちに、勝つことに汲々としてしまい、湘南スタイルが微塵も無くなってしまいました。結果、負けが続いてしまい、自信を失い、ますます消極的なプレーが増える。負けてもいいから、サポーターを楽しませるサッカーをまずはやってほしい。サポーターが明日の活力を得られるサッカーを。

スタジアム問題にしても、今のサッカーにしても、自分たちの価値を見失っているのではないですか? と思わずにはいられません。

4.財源は後からついてくる

結局、この問題がこじれているように見えるのは、平塚市もベルマーレも「お金」や「自己利益」の話ばかりしているからなように思います。

多くの人が「それはあったほうがいいよね」という価値を提示できていれば、お金のことは色々やりようがあります。

市債で賄ったり、その他ホームタウンにも一定の負担を求めること、地元経済界からの支援も受け付けること、クラウドファンディングをする、サポーターからの募金等々。

また、建設後指定管理にするが、市は指定管理料を払わず、ベルマーレに経営の裁量を幅広く認めたうえで上納金を払ってもらうことで、市民の負担を減らすなどもあるでしょう。(プロ野球のマツダスタジアムがこの形です)

お金は実は色々とやりようはあるのです。最悪借金で賄う手もあるでしょう。

ただし、場所は総合公園ではなく、総合公園横の三共跡地が良いと個人的には考えます。土壌調査や土地の取得で余計にお金がかかるでしょうが、総合公園につくるというのは、地域密着クラブであるという理念とそぐわないように思います。

この問題の本質的な部分は、「ベルマーレの存在意義」なんじゃないかと思います。

「勝つから応援する」のではなくて、「ベルマーレだからこそ、応援する」と思ってもらえるクラブになれるかです。

この姿勢を失ったままでは、仮に平塚市外にスタジアムを移しても、根本的問題を抱えたままになってしまうような気がします。

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