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Nurse With Wound 2023年のリリース

2022年6月にこんな記事を上げてから1年と少し。再発のリリースは相変わらず多く、春にはダブリン市にある"GaralleyX"で初の単独展となる『Formless Irregular』が開かれた。この間に発表されたアイテムを以下に記す。円安がひどいこともあり集めるのは困難を極める。情報の多くはコレクター仲間からの提供によることを留意されたし。
※2023 11/24 『Salt / Salt Marie Celeste』を追加しました。
※2023 12/10 『Thunder Perfect Mind』を追加しました。


Alas the Madonna Does Not Function (2022  Dirter Promotions)

1988年にUnited Dairiesからリリースされた12インチをピクチャディスクにて復刻。A面B面の印刷はそれぞれオリジナルに準拠し、スリーヴ裏面は新規アートワークになっている。A面にはトニー・ウェイクフォード(Sol Invictus, Crisis)と録音した「I Am The Poison」が追加で収録されている。
B面「Swansong」は、寄る波の音がMerzbow級のホワイトノイズと化してはまた去っていく。ビキニ諸島沖で実施された水爆実験のドキュメンタリーを見たことで録音された海洋への哀歌にして怒りの表明である。

Mandragore (2022 Lenka Lente)

仏Lenka Lenteレーベルの定番企画で、歴史上の芸術家にまつわるテキストと8cm CDが付いてくる冊子の一つ。NWWが参加するのはこれで何回目になるだろうか。今回のテーマは世紀末芸術の時代に生きた詩人ジャン・ロラン。

Salt Marie Celeste - Salt (2022 ICR Distribution)

2002年にロンドンのホース・ホスピタルにて行なわれたスティーヴン・ステイプルトンとデヴィット・チベットの二人展用に制作された『Salt』と、同曲の別ミックスである『Salt Marie Celeste』をコンパイルしたCD。もともとは展示会場内のBGMとして作られたので、際立った展開を持たないドローンになっている。音のモチーフは海洋。『Salt Marie Celeste』では有名なメアリー・セレスト号がコンセプトになったことで、難破船上でマイクを立てたといった趣向の疑似的なフィールドレコーディングとさえ呼べる。ディズニーが出していたお化け屋敷のレコードのように、純真な子供の好奇心と恐怖心に訴えるムードに満ちた傑作。

Bar Maldoror (2023 Rotorelief)

1991年にCDで発表された最初期のライヴ録音(プライベートで開かれたものがほとんど)をLP化。2014年にCDリイシューされた時に同時収録された2007年のライヴ音源「Bagpipe Gestation」と、なぜか別の時期にスタジオ録音された「Scissors, Radio, Bongo And Bell」がボーナストラックになっている。プレスは2種類あり、銀色交じりの盤にはポストカードが2枚付いてくる。
オリジナル収録分の録音時期及び参加者クレジットに関しては不正確な部分もある。たとえば1曲目「Hymn For Konori」は88年録音と書かれているが、唄っているKonoriがアイルランド西部にあるCooloortaを訪れたのは1990年である。音楽を聴くにあたってはさして必要のない情報だが、研究する身としては、個々の素材が別々の時と場所で録音されていることを念頭に置かねばらない。

The Devil's Interval (Alienation) / To Another Awareness (2023 IT Vasopressin)

Lenka Lenteの冊子シリーズからオクターヴ・ミルボー(2021)とアントナン・アルトー(2018)の号に同梱された音楽を収録した12インチ。400枚の黒盤と100枚のクリア盤がプレスされたが、後者はポップノイズが入ってしまい、レコード好きには少々厳しい結果となった(再プレスされているかは不明)。

Alice The Goon (Funeral Music For Perez Prado) (2023 ES B.F.E. Records)

1995年に仏White Noiseレーベルから出た12インチが新アートワーク・新規ミックスを携えて再発。厳密にいえばオリジナルに入っていた「Prelude to Alice the Goon」が、コリン・ポッターによるA面1曲目「(I Don't Want To Have) Easy Listening Nightmares」リミックスである「Alice The Goon (A Floating Eye)」に差し替えられている。「(I Don't Want To Have)~」はペレス・プラードのマンボをループさせたNWWのマンボ再解釈だが、「Alice The Goon (A Floating Eye)」ではビートが重たくなってインダストリアル化が進んだ。
B面「Funeral Music For Perez Prado」はOrganumことデヴィット・ジャックマンの尺八を流用した曲名通りの鎮魂歌。95年CD『Yagga Blues』に収録されたものより長く、2001年に出た編集盤『Funeral Music For Perez Prado』のものより短い。

Little Dipper Minus Two Plus (Echo Poeme Sequences) (2023 ICR Distribution)

2005年5月のウィーン公演(NWW21世紀初のライヴ)会場にて販売されたCD-Rの再発。未発表音源が追加されたほか、新規アートワークとともにレコード化もされた。また、アブストラクトなペイント付のテストプレスも売られた。
女性のささやきや歌声と最低限のドローンが絡み合う音楽は、水滴の音を遠大に変化させては収縮させるAUBE的ミニマリズムに通じるものがある。やがて『Echo Poeme Sequences』としてシリーズ化され、『2』は特に人気のあるタイトルとなった。

Brained By Falling Masonry / Cooloorta Moon (2023 Dirter Promotions)

1984年リリースのEP『Brained~』と、1990年『Cooloorta Moon』をカップリングしたピクチャディスク。例によってスリーヴ裏は新しいアートワークである。B面は2014年に発表された「Sarah's Beloved Aunt」がボーナスとして収録されている。
「Brained」にはBrainticketのファースト・アルバムが、「Cooloorta Moon」にはウォルフガング・ダウナーによるジョージ・ガーシュウィンのカヴァーがそれぞれフックとしてサンプルされている。スティーヴ・ステイプルトンが敬愛するジャーマン・ロック(Brainticketはスイスだけど、独Bellaphonから出てるので)への賛辞をきれいにまとめた企画といえる。
マニアしか反応しない事実だが、「Cooloorta Moon」は冒頭にBBCラジオ3の番組『Mixing It』でNWWが特集された時のアナウンサーの声が流れる。この音声は1994年のオムニバス『Foxtrot』に収録された「Think Jazz, Think Punk Attitude」でも聞けるのだが、わざわざこれを有したミックスを新規に作ったのか、引っ張り出してきたのか。

Conor McGrady/NWW - Drag Acid - Entering the Forbidden Zone (2023)


アイルランドの映像作家コナー・マクグレディのフィルム『Drag Acid』DVD。同名の自主製作雑誌が母体らしく、『The Dream of Reason Brings Forth Monsters』と銘打たれた号および音源も過去に発表されている。今回でもNWWが音楽を担当。

Mismantler (2023  Astres d'Or)

『Drag Acid』はあくまで劇伴としての参加であったが、アンドリュー・キーオとの共同制作『Mismantler』はその視覚的なコンセプトにもステイプルトンが関わっているようだ。映画的音楽と形容されて久しいNWWだが、肝心の映像作品を作った回数はごくわずかであることから、『Mismantler』がいかに貴重な機会であるかが推し量れる。映像の断片はかつてNWW公式サイトにもアップロードされていた。
仏のAstres d'Orは1点モノのアートワーク付レコードを超限定・超高額で売りに出すよくわからないところなのだが、固定ファンが付いているNWWには適した場所だろう(そうかな?)。このサウンドトラックも25部限定のレーザーカットが売りに出され、あっという間に買われてしまった。Astres d'OrはごくまれにBandcamp上で音源だけ販売することがある。

Shipwreck Radio Volume I (2023 ICR Distribution)

2004年にコリン・ポッターとノルウェーはロト―フェン諸島で実施したフィールドレコーディング実験放送が『Shipwreck Radio』。その第一弾のテストプレスに、1点ずつ異なるペインティングを添えた限定プレス。30部制作されるも、当然ながら即完売。

She And Me Fall Together in Free Death (2023 United Dairies)

2003年にポートランドのBeta-lactum Ringからリリースされたアルバムに未発表音源を追加したリイシュー。前後してリリースされたコラージュやドローン主体の作品と違って、ヒッピーのジャム風バッキングや、ニーナ・シモンで知られるバラッド「Black Is The Color Of My True Loves Hair」のカヴァー(ステイプルトン本人歌唱)が収録されたNWW流アシッドフォークとなった。追加音源「Black」は、2005年にJnana Recordsがチャリティー目的で出したオムニバス『Not Alone』に収録された「Ubu Noir」(「Black Is The Color Of My True Loves Hair」にヴォコーダーを通してクラフトワーク風にしたもの)と同ミックスと思わせておいて、後半はその歌声をさらに歪ませた内容になっていた。Faustとの共作『Disconnected』アナログ版またはNWWレギュラーメンバーによるオムニバス『Ød Lot』でしか聴けなかった、スティーヴン・ステイプルトン流のフィメール・ヒップホップ「Fine Writin'」があるのも嬉しいね。
仏のLogical Absurbなるレーベルが多数のカラーバリエーションを持つ3LPボックスを製作中とのこと。

In Fractured Silence (2023 SouffleContinu Records)  以下の記事を参照。

Soliloquy for Lilith  Iridescent Edition (2023 Dirter Promotion)

NWWの代表作としても過言ではない『Soliloquy for Lilith』(1988)も今回で4度目となるCDボックス化。アートワークのプリントが所謂玉虫色になっているが、音源は2016年に赤プリントでリリースされたバージョンと同じミックスとのこと。8曲すべて同じようでいて、確かに違う催眠的ドローンの極地。一家に一箱。

Thunder Perfect Mind (2023) INFINITE FOG PRODUCTIONS

1992年にリリースされた名作が3LP/2CDでリイシュー。奇妙なリズムへの執着が機械的なビートへと着地した「Cold」と、後に「Yagga Blues」などの曲で使用されるエキゾチックなパーカッションが初披露されるゴシックオペラ「Colder Still」の組み合わせが秀逸。カップリングの曲は2016年にJnanaが再発したものと被っているが、「Zero Neither No (Andrew Liles mix)」という新規収録もあるようだ。

Steven Stapleton & Tony Wakeford / REVENGE OF THE SELFISH SHELLFISH (2023 NIHILIST)

個人的に今年最重要リリース。ステイプルトンがトニー・ウェイクフォードとの連名で制作した92年名作のLP再発。かつてCurrent 93は自分たちが提唱したアポカリプティック・フォークの音楽性を、フォークソング+実験音楽と定義したが、本作はそれをもっとも体現した一枚。しかも英国の教育番組用などに使われたアラン・ホークショーのライブラリ音楽をサンプルしたことで、当時出てきたばかりのStereolabやBorads Of Canadaがやっていた非クールブリタニア的な英国文化再評価にも(たまたまとはいえ)同調している。
500枚限定、青と緑のカラー盤が250枚ずつ。裏面アートワークはマット・ウォルドンによる新規のコラージュである。2009年には米Robot Recordsがボーナストラック付2枚組CDでも再発しているので、こちらも押さえておきたい。

NIHILISTレーベルはダイアナ・ロジャーソンの15年ぶりとなった新作『blue bottle in a jam jar』もCD化している。

HEALSGEBEDDA BUDGERIGAR - Analogue Postcard (2023)

ギリシャのクサンティ民俗歴史博物館を支援する名目で制作された音の出る250枚限定のポストカード。かつてCurrent 93とCoilのバージョンがそれぞれ作られていたが、このたびNWWも同じステージに立った。ギフトとして贈られたため、筆者のものにはナンバリングがない。今年一番の幸運かもしれない。

GaralleyXで開かれた個展のカタログも上のポストカードとともに受け取った。日本でもこんな機会があればいいなあと想像して早幾年。一応有志と考えてはいるのです。

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