引越物語⑭帰ってきた未希ちゃん
職場では上司だった彼女。
退職してから友達になったのが未希だ。
メールやzoomで真夜中でも連絡をとってしまう変人で、わたしに小説を書かせている困ったさんである。
「久しぶりー!帰国したばかりやけん。時差ボケが酷くて。」
未希の声は弾んでいる。隣に立つご主人らしき人もにこやかにお辞儀をしてくださった。
「未希ちゃん、ひさ…!!」唖然とした。
ご主人が若返っている。
明らかに結婚式で見た人とは別人だ。
・(9♪1
手が震えて仕方ない。わたしは訳の分からない文字を打ち込んでいた。
この感情って何なんだろう。
羨ましいのか、怒っているのか。
「国際ロマンス詐欺って言ったのよ、あの子。もう友達やめたわ。」
ご主人が仕事をしていないこと、自分の会社で働いてもらおうと思っていること、披露宴をイタリアと日本で2回するつもりだということを一気に聞かされて、わたしはすっかりのぼせてしまった。
「おめでとう!優しそうなご主人だね。」
兎に角、二人に余計な心配をしていることが伝わらないようにしないと…。
愛想笑いが苦手なわたしは、花粉症を理由にマスクを手にする。
そして、眼鏡を外した。
眼鏡越しに見る二人は、互いに愛を育んでいた。
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