紙飛行機は途中で落ちた

生温い風が頰を撫でる。夏の夕方の風鈴の音が耳障りに思えた。そんな夏の日に見た入道雲は、モコモコしていて屋台の綿菓子みたいだった。

 河原にて。生温い風を全身に浴びながら、赤の紙飛行機を飛ばした。紙飛行機は真っ直ぐ飛んで、パタリと落ちた。あの生温い風はどこから来たのだろう。ふと、そんなことを思った。

 夏の夕方の生温い風は、風鈴に似合わないと私は思った。あの南だと思われる方向から来る風は湿ってい

もっとみる

叔母の猫

こたつで寝ていると、棒のようなもので、急につつかれて起こされた。

デッキブラシの端だった。

——なにすんだ、てめえ。

起き上がると、わたしは伯母に食ってかかった。
伯母はおどろいて、何かもごもごと言い訳を口にしたようだが、不明瞭で言葉が聴き取れないし、わたしにも聴き取る気はない。

——くそばばあ。きちんとあやまりやがれ。

伯母はわたしを怖がりつつも色をなして抗議した。そんなことをされるの

もっとみる

ミックスジュース

ねぇ。ねぇお姉さん…ありがとう、ペットボトル拾ってくれて。

 これ期間限定のフルーツミックスジュースなんだよ。それでね今日はね…わたし? わたしはチカって名前。歳は、じゅう。

 そうなの。今日はおつかいに来たの。お姉さんは……お姉さん仕事帰りなのかな、渡したらすぐ向こうにいっちゃった。あー、私ってどんな大人になるのだろう。お姉さん、スーツにヒールを履いていて、コツッコツッと音がする、そんな大人

もっとみる

溺死

「うぅ、今何時だぁ…?」

とある日、とあるラブホの一室。
朝なのか、昼なのか、夜なのか。
時間も分からないような薄暗いその部屋で、
彼は目覚める。

また溺れていた、深くて暗い海の底に。

彼は、「それ」以外に寂しさを埋める方法を知らなかった。いや、知ろうとしなかった。

雑音の多い昼を嫌い、静かな真夜中を好んで生きていた。

シャワーを浴びた後、ベッドの膨らみを優しく揺り動かし語りかける。

もっとみる

NiCE(24) 遠山先生

===================
お金に関するフィクション
『NiCE』の24回目です。
本文はそのまま読めます。第1回はこちら。
===================

 ミカは自分の家のダイニングキッチンが自慢らしく、頻繁に人を呼ぶ。こんな山間の村に、こんなに若い女の子がいるのかと不思議になるが、どうやら遠方からもくるらしい。多くはミカに憧れている、ミカと同世代の女の子たちだ。

「ミ

もっとみる

「君が好き」どうしようもなくそう思うのに、そのたった一言だけが言えなくて、いつもみんなと同じ距離感で接してしまうんだ。仮面を付け替えるように、服を着替えるように、いろんな人にくるくると合わせて振る舞うことはできるのに、君専用にカスタマイズした「仮面」は、持っていなくって。

朝日が差す六畳間に心が寝違えてしまった男が一人

僕の部屋は二階で一回のリビングでは既に生活音が響いており家中が朝を迎えていた。

眠い目を擦りながら輝かしい朝日を背中に受けて僕は目覚ましが鳴るよりも早く部屋を出た。リビングに入ると真っ先にコーヒを焙煎した。これは毎日のルーティンで、これを忘れると一日は始まらない。そのぐらい僕にとっては重要であった。

「おはよう!!」

今日初めて僕の口から出た大切な言葉は、

なぜだろう誰にも届かなかった。

もっとみる

【短編小説】No.1 過干渉と自己愛

これでnoteのアカウントを作ったのは3度目である。
修也は頭を抱え、溜め息を放った。

なぜ何度も消したのかと言うと、兄からの身ばれの疑いがあったからである。

毎回ブログを更新する度に、その内容にちなんだラインが送られてくるのである、最初は偶然だと思いやり過ごしていたが、あまりにも更新する度に来るので違和感を感じていた。

思いきってアカウントを消してみると、パタリとラインの着信音がその日から

もっとみる

NiCE(23) 【日記】2010年8月、13歳

===================
お金に関するフィクション
『NiCE』の23回目です。
本文はそのまま読めます。第1回はこちら。
===================

8月9日
 二十歳のもえ、元気ですか? 今日はいい日だった。アルバイトでおもしろいことがあったの。ごうちゃんが考えてくれた、アルバイト。わたしがカラオケで歌った声をごうちゃんがCD-Rに焼いてくれて、それをわたしがファン

もっとみる

あいつはメンヘラしか愛せない

あいつのことを書く。

あいつとは地元が同じで幼少期をともに過ごした、大学こそ別の、23の幼馴染のことだ。
メンヘラ星人をいちはやく察知して、自分しかそれを救えないとかほざいて、あげく振り回される自分にさえ酔っている。
カースト上位の条件は金、顔、コミュ力と聞くけど、合コンで必ずと行っていいほど「当たり」を持ち帰るあいつを考えると、顔も金もメンヘラの前では効力を発揮しないと分かる。

 

あいつ

もっとみる