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日本の女性活躍について:現状と背景                   

女性の活躍推進は2014年にアベノミクスにおいてもっとも重要な成長戦略の
ひとつとされた。その後コロナ禍にみまわれ、日本を含む世界で女性の労働力が失われた。現在は以前ほど取り上げられなくなった女性活躍課題。日本の女性活躍課題は他の先進国と比較して大きく遅れをとっているのが現状だ。現状や背景について考察した。

国際比較
2023年の世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数は2006年の公表以来最低の146ヶ国中125位。2022年は116位で、前年から9ランクダウン。政治の参加における順位は138位で世界で最も低いレベルである。

2024年の今年国際女性デーに発表されたイギリスのThe EconomistsのGlass Ceiling IndexではOECD参加国29ヶ国の内日本は総合27位。北欧各国が近年上位を占め、韓国、日本、トルコが下位を占める傾向が続いている。以下一部をピックアップした。
・国会議員に占める
  女性の割合:10.3%、OECD平均:33.9%、順位は最下位の29位
・管理的職位の割合:14.6%、OECD平均:34.2%、最下位の29位
・取締役の割合:18%、OECD平均:32.5%、27位
・男女の賃金格差:21.3% OECD平均:11.9%、27位

日本の民間企業での管理的職位の割合や取締役の割合は以下徐々に上昇傾向であるが、劇的な変化が起こらない限りアメリカの女性の管理的職位の割合42.6%(Glass Ceiling Index2024)に追いつくには長い時間がかかることが予想される。

民間企業の女性管理職比率、役員数の推移
国土交通白書2021

(注)左:常用労働者100人以上を雇用する企業に属する労働者のうち、雇用期間の定めがない者における役職者 令和2年調査より推計方法などの変更があったため、経年比較には留意が必要 右:調査時点は原則として各年7月31日現在。調査対象は、全上場企業。ジャスダック上場会社を含む 「役員」は、取締役、監査役、指名委員会等設置会社の代表執行役及び執行役 資料)左:各年6月時点、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」より作成 右:東洋経済新報社「役員四季報」より作成

現状をサポートする背景
著名なグローバルリーダー開発機関Creative Center for Leadershipは、組織でジェンダーギャップを埋めるためには、PUSH要因:外部からの圧力。システムとしてのジェンダー役割期待や家族の役割。PULL要因:女性の内面からの声。出来ないと諦めてしまうこと等要因を探っていくことが提案されている①。まずは、PUSH要因からみていきたい。

PUSH要因1:性別役割意識
日本の男性の有償労働時間は14ケ国の中で最も長く、無償労働時間が最も少ない。無償労働時間の男女比(ギャップ)は最も高い②。長時間労働に関する問題意識は高まっているが、日本では他国と比較して長時間働く現状がある。
北海学園大学明治以降名誉教授の中村敏子さんによると日本の歴史の中では明治時代から国家が男性にだけ権利や義務、参政権を与え、国家を担うのは男性とし、男性が働きに出て、女性が家を守るとして「良妻賢母」教育がなされた。西洋では夫婦イコール夫と妻の「個」であり、夫が財布のひもを管理した。1970年代に「専業主婦は嫌だ」とするフェミニズム運動が起こり打破が目指された。一方日本は男性がモーレツサラリーマンとして働いていても女性は「3食昼寝付」で財布のひもを握り続けた為、海外のような大きなフェミニズム運動が起こらなかったという③。
最新研究でも日本の男性が女性と比較して伝統的な性別役割意識を持っていることが判明した④。

PUSH要因2:既婚女性のキャリア
日本では出産時に就業していた女性の約6割は出産後離職している現状がある⑤。日本女性の非正規労働者の割合は38.4%で、OECDの比較されている37ヶ国の中で4番目に高い⑥。尚、1位のオランダはパートタイム雇用を賃金、雇用の安定、社会保障等フルタイム雇用と均等待遇を獲得した為別格である⑦。日本、韓国、カナダ、イタリアの4ヶ国の比較でも、日本の既婚女性の非正規雇用の割合が高い⑧。非正規雇用を選択した理由として家庭の事情(家事・育児・介護等)や他の活動(趣味・学習等)と両立しやすいことを挙げている⑨。
福井県池田町では町職員同士が結婚した場合、夫婦どちらかに退職を求める内規が現在も存在している。「夫は外で働き,妻は家を守るべきである」という考え方について,賛成の割合が反対の割合「反対」+「どちらかといえば反対」を上回った⑩。令和の現在もまだ伝統的家庭役割意識が根強く残っていることが伺える。

PUSH要因3:ジェンダーバイアス
私達は何故バイアスをもって物事を捉えてしまうのか?幼少期から自分たちのような人「In group」、そうではない人「out group」に分け、アイデンティティや安心を得るという⑪。
日本では、「女性=優しい」というステレオタイプは4歳頃から、「男性=賢い」というステレオタイプは7歳頃からみられる可能性がある事が明らかになった⑫。幼少期からバイアスが無自覚に確立されていくのだ。バイアスは極端に進むと偏見や差別になりえることがあり、自覚することが必要だ。

両面価値的性差別:敵対的性差別と好意的性差別
女性に対する差別的態度は複雑な構造を持つと考えられている。両面価値的性差別である。
敵対的性差別とは:敵対的な女性に対する見方や女性に対する反感。
好意的性差別とは:女性を男性よりも弱い立場と捉え、男性から大切にされ、守られるべきである、というもので、男女格差を心地よく合理化す働きがある。
好意的差別の方がデメリットがあるという研究がある。女性にはこんな仕事は無理だから、ということで守ろうとするとそれを受けた女性に自己疑念や自尊心の低下が見られたという⑬。
好意的性差別は女性に活躍を期待していないと示唆する意図があり、よかれと思ってと実行する前に、意思確認をする必要がある。

ジェンダーバイアスの影響
ジェンダーバイアスは採用、昇格、昇級、給与、職業等にも影響を及ぼす。
積極的な女性は偉そうにみえるが、積極的な男性は頼もしい、と見られがちだ。実際に管理職は望ましさの程度(ハードワークに耐える、野心的である)が似ている男性向きで、女性はふさわしくないというジェンダーバイアスが存在する⑭。
一方男性でも「おとなしすぎる」として強気で主張する男性の理想に満たしていないとみられる⑮。

女性の昇進にはしばしばこわれたはしご(Broken Rung)という表現が用いられる。
例:
・女性は過去の実績で採用されるが、男性は可能性を見越して採用される。   パフォーマンスバイアスである⑯。
・人事査定では男性はチームワークを戦略的な最終収益に結びつけられやすいが、女性の共同行動はビジネスの成果と捉えられず、チームをサポートしている証拠やパーソナリティ、価値観の反映とされる⑰。
・女性マネージャーより男性のマネジャーの方が上司から、よりアクションに結びつくフィードバックを受ける⑱。
・シニアの職位の男性は若い男性を自分の若い頃とに照らし合わせる為、飲み会など様々な会合に誘い、男性は「派閥」に入りやすい⑲。

入社時には同じスタートラインに経っているはずが徐々に処遇に差が生じる可能性を示唆している。管理職はジェンダーバイアスを取り除くトレーニングで意識化することが重要となる。

ジェンダーステレオタイプとガラスの崖 Glass Cliff
女性は男性に比べてストレッチアサインメントいわゆる成長を促すような職務を受けにくく、同じ役割でも男性よりもスキルや経験が上回ることが求められ、ガラスの崖の職務を受けやすいとされる①。
ガラスの崖のメタファーの始まりは2003年にロンドンFTSEで業績が芳しくない企業の役員に女性が抜擢されていたことによる。頻繁に例に出されるのはイギリスの元首相メイ氏やGMのメアリーバラ氏である。

Think manager Think male vs Think Crisis Think femaleとは⑳
被験者を用いた研究では:
・同様のスキル、経験や実績の男女の職務経歴書を読んでもらい、会社の業績が下向きな時にいずれも女性リーダーを選んだ⑳。
・組織が危機の際に女性のジェンダーステレオタイプにある「優しい」等が人間関係の危機に向いているとみなされ、男性によくあるジェンダーステレオタイプの「決断力がある」が財政難に向いているとみなされた㉑。

以下のようなジェンダーステレオタイプは
女性:優しい、気配りのきく、理解がある、他者を思いやる
男性:有能、自立している、競争的、自信がある
Think Manager Think Maleはシェインが男性のステレオタイプが良いリーダーと取られやすい傾向があると警鐘を鳴らした。組織が危機の際には女性のもつ「ステレオタイプ」が上記の研究で向いていると認識されがちなことを意味する。これはThink Crisis Think Femaleといえる⑳。実際に女性のリーダーがパンデミックの際に効果的だったとするデータもある㉒。特に女性リーダー下では従業員のエンゲージメントレベルが高かったという。

アメリカの33人の有色人種の女性リーダーにインタビューをした結果、ほとんどの人がキャリアを積む為に、高リスクで障害の多いキャリアであえて選択してきたという㉑
しかし、これには大きなリスクがはらんでおり、女性は男性より困難で崖っぷちでの立ち回りが要求されている可能性がある。

PULL要因1: 女性は自信、自己肯定感が低い?

Confidence Codeという本が出版されて以来、女性は完璧でないと自信がもてない等々紹介されて以来様々な研究がなされている。

・男性は仕事に応募する際に60%求められる経験や知識が合致していれば応募するが女性は100%でなければ応募しない㉓
・男性は能力と行動や成果を実際より上に捉える傾向があり、女性は実際よりも下に捉える傾向がある㉓
・男性は女性と比較して4倍頻繁に給与の交渉をする㉔
・女性は男性より内容を精査するため、発言しない傾向がある㉕

近年女性がより自己肯定できるTipsが多く書かれており、組織や個人ベースでも様々なトレーニングも行われている。

PULL要因2:女性が管理職を目指したいと思わない理由:家庭と仕事の両立
様々なリソースから女性が管理職を望まない理由がいずれもワークライフバランス、家庭と仕事の両立があることが判った㉖㉗㉘。我田引水かもしれないが日本では女性は家事、育児の多くを担うことが当たり前とされており、管理職の役割までは無理であるという思いが背後にあると推測される。
実際に隠れた昇進意欲もあり、引き出すことで意欲が高まった例㉘や管理職になりたいと思ったきっかけは職務を認められた㉖等、上司によるコーチングや励ましで意欲が向上した例もある。海外の例だが、300名の成功した女性のインタビューでは、自分の時間を忘れる位没頭できることを探すこともキャリアの成功に繋がったという㉙。

女性活躍はいちから土を耕して種を植えていくようなもので、急に収穫ができるものではない。
組織の多様性がもたらすメリットは幅広く研究がされており、ダイバーシティを促進させる企業文化は健全なコンフリクトが起こり、イノベーションと収益が高いとされる研究等がある㉚㉛㉜。

わたしたちは日本の将来を同質で構成される組織、多様性のある組織のどちらに託したいだろうか?

参考文献
①3 Organizational Steps to start tackling the widening gender gaps in the workplace Creative Center for Leadership, 2022
②男女共同参画局 男女労働参画白書令和2年版 生活時間の国際比較
③性別分業と男性上位の考え方 いつ、どう広まったのか日経XWoman2022
④Measuring Gender Role Attitudes in Japan九州大学&Dartmouth College 2021
⑤国立社会保障・人口問題研究所「第14回出生動向基本調査(夫婦調査)」平成22年
⑥OECD Employment Data2022
⑦オランダ パートは「非正規」と見られないフレキシブル雇用とのバランスが課題:第51回労働政策フォーラム アルヤン・カイザー
⑧国際比較でみる日本の非正規型雇用 岩上真珠2016
⑨男女共同参画白書平成25年度女性のライフステージと就業
⑩内閣府「男女共同参画社会に関する世論調査」平成24年10月
⑪Psychology Today US
⑫gender stereo types about intellectual ability in Japanese children, Scientific Reports 京都大学2022
⑬なぜ女性管理職は少ないのか 青弓社
⑭男性リーダーの望ましさとジェンダーバイアスの関係2019 野村浩子、川崎昌
⑮研修をしても管理職のジェンダーバイアスがなくならない理由 HBR
⑯Women in the Workplace、McKinsey2023
⑰研修をしても管理職のジェンダーバイアスがなくならない理由HBR
⑱Research: Men Get More Actionable Feedback Than Women、HBR
⑲ミッドキャリアの女性を妨害する3のバイアスをいかに取り除くかHBR
⑳Discovering the Glass Cliff: Insights into addressing subtle gender discrimination in the workplace, Univ. of Exeter
㉑Invisible danger of glass cliff, BBC
㉒女性は危機下で男性よりも優れたリーダーシップを発揮するHBR
㉓The Confidence Gap in Men and Women, Why it matters and how to overcome it. Forbes
㉔Why Women Struggle With Confidence More Than Men、Success Magazine
㉕Secrets to confidence for every women leader, Forbes
㉖より多くの日本の女性リーダーの 躍進を目指して2020McKinsey
㉗日経ウーマノミクスプロジェクト女性管理職増えない壁はアンケートでみえた本音2022年
㉘女性の昇進意欲についての研究 商大ビジネスレビュー2021藤原弥季
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