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素敵な靴は、素敵な場所へ連れ行ってくれる。 4

 普段の拓海は、食事中はもう少し饒舌で明るい、日々のことなども有美ともよく話す、けれども一旦、創作に入ってしまうと人が変わったように、そのことに没頭してしまう。
(まえから、この人はそうだったんだろうか?)
こんな事はもう何回も繰り返し経験しているはずなのに、有美には今日の拓海は少し違って見えた。
「お代わりはいいの?」
まるで、母親が小さな子供に聞くように尋ねると、彼は、首を横へ振って返事をした。
有美は食事を終えると、手早く食器を片付ける、二人の無言の食事はこうして終わる、拓海は、片付けられたテーブルに再びパソコンを据えると、作業を再開し始める。
カチカチとキーボードをたたく音を背にして、有美は片付け終えると、床に散乱した資料に気を付けながら、隣室のベッドへドンと音を立てて、大の字になって寝転がる、一日の疲れがこの瞬間だけ飛散していくような気がする。
 拓海は、相変わらずどんなに大きな音を立てても微動だにせずにパソコンに集中している。ふと有美は、ベッドに寝ころびながら、彼の横顔を見る。
 時々、キーボードを打つ手を止めて、目を閉じて天井を見るような仕草をする、しばらくすると再びパソコンの画面を見て入力する。そのたびに視線が厳しくなったり、瞼をしょぼつかせたりと、表情が目まぐるしく変化していく、有美は、多分、今が佳境に入っているのかなぁと、勝手に想像した。けれども、時々見せる、拓海のこんな態度や表情が、有美には、段々と我慢できなくなってきていることに、自分自身で自覚し始めてきている。
 一緒に住み始めたころは、彼の背中を押すように、できる限りの応援はした、しかし時間というものは恐ろしい、初めに惰性が生まれて、それが向上心さえ奪うようになってくる、
(私たち、じゃなくて私はどうなるんだろう)
 有美は天井を見つめてそう思う。
 少しだけ、ウトウトとして、有美はまだメイクも落としていないことに気づくと、お慌てて起き上がる。厳しい顔して、なにか資料を見ている、拓海の横を、
「ごめん、通るよ・・・」と言って、バスルームでメイクを落とす、ついでに
シャワーも浴びようと、部屋から着替えとタオルをとってくる。
 シャワーを終えても、拓海の作業は終わらない、また資料や書類の海を飛び越えてベッドへと戻る。
 「明日、また早いし、もう寝るね・・・・・」
 パジャマに着替えて、もうすっかり寝る用意ができた、有美は拓海の横顔に話しかける。
 彼は、今日何回目かの、ああと、言ってから、おやすみと、有美の方を向いていうと、またパソコンへ向かい始める。


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今宵も、最後までお読みいただきありがとうございました。

拙い文章で、お恥ずかしい限りです。

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