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松下洸平、生駒里奈、舞台「カメレオンズ・リップ」★嘘つきだらけ

 嘘(うそ)つきばかりの登場人物たちが、騙(だま)し合い、事態をますます混乱させ、謎は深まるばかり――そんな舞台公演が、有名人たちの嘘、フェイクニュースの話題が駆け巡る、現代の世相と重なってみえた。

 NHK連続テレビ小説や民放ドラマで活躍している俳優松下洸平(まつした・こうへい)、アイドルグループ乃木坂46の元メンバー女優生駒里奈(いこま・りな)らが出演する舞台「カメレオンズ・リップ」(東宝、キューブなど主催)が4月15日、シアタークリエ(東京・日比谷)で上演された(上演期間:4月14日~26日。その後、愛知ほかに巡演)。

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カタログから

 嘘つき同士の騙し合いがコミカル、ミステリアス時々狂気的に展開し、嘘と嘘が交錯する予測不可能な作品。劇作家・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)が創作し、2004年に堤真一、深津絵里らのキャストで初演された。その戯曲(ぎきょく)を今回、演出家の河原雅彦が新たに演出し、松下洸平生駒里奈らが挑んだ。

 バラエティ番組などで活躍中のファーストサマーウイカ、俳優の岡本健一、お笑いタレントの坪倉由幸(つぼくら・よしゆき、女優・野口かおる、俳優・森準人(はやと)、女優のシルビア・グラブといった、多彩な顔ぶれも並ぶ。

嘘つきの姉に、そっくりな使用人

 20世紀初めのヨーロッパのどこか、山あいに建つ古びた邸宅(ていたく)に暮らすルーファス松下洸平)。彼には、嘘をつくのが得意な姉ドナ生駒里奈)がいたが、謎の死を遂げる。

 しかし、その後、不思議なことに、姉ドナと外見がそっくり使用人エレンデイラ生駒里奈一人二役)と暮らしている。ドナと縁のあった人たちがルーファスの邸宅を訪れると、亡くなったはずのドナ瓜二(うりふたつ)つの使用人エレンデイラがいて、びっくりする。

 ドナの元夫であるナイフ岡本健一)は、元使用人で恋人らしき女性ガラファーストサマーウイカ)と一緒に邸宅を訪れ、ドナとそっくりな使用人エレンデイラ生駒里奈)を見て、驚く。だが、徐々に落ち着きを取り戻し、とりあえず別人だと納得する。

 そんなナイフ岡本健一)とガラファーストサマーウイカ)の2人だが、偶然通りがかった地元の眼科医モーガン森準人)に対して盲目と偽(いつわ)って道案内をさせたり、安い毛皮の帽子を高値で売りつけたりするなど、嘘つきである。邸宅を訪ねたのは、ドナの墓を作るのが目的だと告げるが、それも嘘で、ルーファスの邸宅を乗っ取ろうとたくらむ

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カタログから

 邸宅の主人ルーファス松下洸平)は堂々とした振る舞いで、姉ドナを知る来訪者たちを招き入れる。だが、その内実は、お金に困り、借金のカタとして邸宅も差し押さえられそうになっている。

 そこで、ルーファス松下洸平)は、使用人エレンデイラ生駒里奈)が拾った(盗んだ)というカバンに目をつける。カバンは、有名な化粧品会社の女社長のもので、中に入っていた手帳と写真をスキャンダルのネタとして、お金をゆすり取ろうと考える。

 そこに、カバンの持ち主として邸宅を訪ねてきた、化粧品会社の女社長と名乗るビビシルビア・グラブ)も、実は社長のふりをした嘘つきビビは、ナイフ岡本健一と手を組んでおり、逆に、ルーファスからお金を取ろうとたくらむ。

 さらにビビは、使用人エレンデイラ生駒里奈)と親しげに話しており、ドナ生駒里奈)とそっくりの顔に整形して邸宅に潜り込んだセルマだと思って会話をしている。だが、どうも話がかみ合わない部分があり、本当にセルマなのかと疑い始める。

嘘の中に紛れた真実

 謎は深まるばかりだが、秘密の地下室が発見され、事件性が醸(かも)し出されてくる。セルマはすでに消されたのか、では、エレンデイラ生駒里奈)の正体は? 

 軍人だと名乗るハッケンブッシュ大佐(坪倉由幸)も加わる。その正体が、刑事だと分かると、エレンデイラ生駒里奈)とルーファス松下洸平)は、銃で消す。従順に振る舞っていた使用人エレンデイラが、ここへきて禅問答のような”嘘”で問い詰める狂気性は、冒頭で登場した姉ドナ生駒里奈)の姿と重なってみえる。ハッケンブッシュは、次のような話を残していた。かつて虚言癖(きょげんへき)がひどいために入院させられ、そこから脱走した女性がいた、と。

 舞台上に最後に残ったのは、邸宅の主人ルーファス松下洸平)と、使用人エレンデイラ生駒里奈)。雨が降り出す中、ルーファスは、かつて姉ドナと無邪気に遊んでいたようにエレンデイラと追いかけっこをして、はしゃぎ回り、親密な関係を示す。

 唯一の生き残りは、邸宅から逃げたビビシルビア・グラブ)と、外出していたナイフ岡本健一)だが、戻ってきたナイフが邸宅に呼び込まれる場面で終幕となる。地下室の秘密を目撃した眼科医モーガン森準人)は消されている。学生時代にドナに騙されたという友人シャンプー野口かおる)とのイザコザに巻き込まれ、ガラファーストサマーウイカ)などもすべて退場している。

 謎を解く一つのカギとして、ルーファス松下洸平)が、肖像画のような額縁から現れる姉ドナ生駒里奈)の幻と語り合うシーンがある。姉から嘘つきを受け継いだルーファスが、脱走していたエレンデイラ生駒里奈)と出会い、姉そっくりの姿にほれ込み、共犯的な依存関係を生んでいったのか。

 あるいは、姉ドナ生駒里奈)は生きていて、すべてはルーファス松下洸平)と二人で仕組んだ罠(わな)だったのか――。すべての謎は謎のまま、狂気的な展開で一気に観客を引きずり込む。

自然体が狂気な演技

 それぞれが役柄の個性を発揮していた今回の出演者の中で、とりわけ強い印象を残したのが、姉ドナと使用人エレンデイラの2人を1人で演じていた生駒里奈

https://www.youtube.com/watch?v=DNSoxpoTXco
KERA CROSS第三弾『カメレオンズ・リップ』生駒里奈コメント
キューブ舞台制作 公式 YOUTUBEチャンネル

 生駒里奈は、アニメ声優のような、高くてよく通る、クセのある特徴的な声が、かえって異常性をはらんでいるように聞こえる。マンガのようにドタバタと駆け回る動きがキャラクター的でありながら、かえって虚構と現実を容易に行き来する

 おそらくは自然体で持っているものが、役を演じているという虚構性の中で、姉ドナの嘘っぽさを醸(かも)し出してくるのだろう。しっかりしなければという姉っぽさと相反して、天然のような雰囲気が、少しドジっぽい使用人エレンデイラと、そこに姉ドナの狂気性をふっと覗(のぞ)かせる。

 松下洸平が高い演技力を示す一方、生駒里奈のぎこちなくみえる演技がかえって自然体にみえ、生かされていた気がする。

嘘と真実

 そもそも舞台で何かの役を演じているのも、嘘である。だが、虚構といえども現実になぞらえた部分があるわけで、虚構を使って、現実を逆に照射する。そのことによって、かえって現実の嘘に隠された真実が見えてくる場合もある。

 本作を創作したKERAが愛読し、『桜の園』などの作品を残したロシアの戯曲作家チェーホフは、「芸術家の役割とは問うことで、答えることではない」という言葉を残している。謎が謎のままであるということは、ある意味、この複雑怪奇な現実社会を投影している。

 「人は信用できないから」という理由で、嘘ばかりついていた姉ドナ。そうした不信感の連鎖によって、嘘がはびこる世の中とはいえ、人間は何かを、誰かを信じなければ生きていけないのも事実である。嘘の中の真実を見抜く努力を怠らず、チェーホフの「自分の運命は自分で作り出すべきもので、虚偽や不正は絶対に排撃せねばならない」という言葉に耳を傾けたい。

▲上のリンクが公式サイトです▲
【★ひーろ🥺の腹ぺこメモ】シアタークリエの直近で食事は済ませようとすると、日比谷シャンテ(1階とか地下)がやっぱり便利かな。JR有楽町駅周辺も、好きな店が多いけど、ちょっと歩きます。


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